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場づくりを成功させるための5つの鍵 #5-1 安心・安全な場のために知っておきたいリスクの話 (前編)

2019.08.07 WED 23:53
執筆 舟之川聖子 構成 増山かおり
PROFILE

舟之川聖子(ふなのかわ せいこ)

鑑賞対話ファシリテーター、場づくりコンサルタント

滋賀県生まれ。東京都在住。一人ひとりとの関係や交流を大切にする場のデザインや場をつくりたい人のサポートをしている。 2011年より場づくりを学び、ワークショップデザインやファシリテーションのプログラム開発、講座講師、ブッククラブや百人一首のコミュニティ運営に携わる。舞台や展覧会の鑑賞対話会、映画上映会、オンライン読書会、読み聞かせ、一箱古本市、ポッドキャストなどの活動を通して、多種多様な場の可能性を日々探求中。
web: http://hitotobi.strikingly.com/
note: https://note.mu/hitotobi
twitter: https://twitter.com/seikofunanok

■ 身体だけでなく心にも安心・安全を

これまでの回で、みなさんご自身の「本質」から発する場づくりと、それを分かち合いつながりを生むための方法をお伝えしてきました。最終回となる今回は、「安心・安全な場」についてお話します。
「安心・安全」と聞くと、事故や災害への対策を思い浮かべる方が多いかもしれません。お寺は地域の避難場所になっていることもあるでしょうし、有事の際の避難経路確認や、緊急連絡先を聞いておくなどの対策を取られている方も多いかと思います。ですが今回は、こうした身体の安全だけではなく、心の安心・安全が確保された場について取りあげます。
場を開いたとき、いいことだけが起こるわけではありません。複数の人が集まる場ではいろいろとうまくいかないことが起き、参加者や主催者のみなさんの安心・安全がおびやかされるリスクも生じるのが現実です。ですが、人が集まったときに起こりうるマイナス面も知っておけば、それを事前に防ぎ、より健やかな場づくりをすることが可能になります。

■ 参加者にとって安心な場

複数の人が集まる場になるとどうしても「全体」の力が強くなりがちで、普段の1対1の人間関係では決してしないような言動や行動を無意識にしてしまうこともあります。誰もがより安心して過ごせる場をつくれるよう、どういう場面でそうした負の状況が発生しやすいのかを知っておきましょう。以下に、特に気をつけたいシーンを挙げました。このような場面に対しては、場を主催する守人のみなさんが介入し、より健やかに過ごせるよう舵を切っていきましょう。

【安心・安全な場づくりのチェックポイント】

・ハラスメント
グループワークなどにおいて、明らかに人を傷つけるような発言や、人の体に勝手に触れるような行動が見られることがあります。また、善意やアドバイスのつもりであっても、相手の気持ちを想像せずに発した言葉が他の参加者を傷つけてしまうこともあります。例えば、上の世代の人が若い人に向かって「あなたも経験すればわかるよ」とか「早く結婚したら」といった言葉を投げかけるケースなどです。
こうした状況を見かけたら、場を主催する守人が声をかけて注意したり、場合によってはグループの座組を変えるなどの配慮をしましょう。当事者はもちろん、それを見ている周りの人も、守ってもらえたという安心感の下に過ごすことができます。こまめに各グループを見て回れば、何か不安なことがあったときに参加者が危険信号を発することができ、こうした行為を防ぐことになります。仮にその場で言えなかったり、こちらでフォローしきれなかったりした場合でも、参加者を守ろうという姿勢が伝わり信頼関係ができていれば、後からアンケートなどで教えてもらえることもあります。

・マイノリティへの配慮の欠如
「親というものは一般的に〜」とか「若者だったら恋愛しているだろう」といったカテゴライズやラベリングもよく見られます。「一般的に」「普通は」「たいてい」「誰でも」といったワードには要注意です。すべての人が安心して心地よく過ごすためには、「男性」「母親」「若者」「日本人」といった言葉でひとくくりにせず、一人一人の人間として対等でいられる配慮が欠かせません。
参加者や講師がこういった言葉で話を展開しているのが見られたら「そうじゃない人もいますよね」と一言投げかけるだけでも、マイノリティへの配慮になります。日頃からいろいろなニュースに触れて、いろいろな人がいることに気づけるよう、感度を高めておきましょう。

・プライバシーの侵害
主催者が参加案内などのメールを送る時、Bccにして参加者の連絡先が他の人に開示されないように注意しましょう。Ccで送信すると他の参加者にアドレスが伝わってしまいます。また、参加者のつながりを意識するあまり、連絡先をやりとりすることを強要するような発言をしていないかも気をつけたいところです。
また近年は、写真撮影がトラブルになることも増えています。後日のレポートや次回の告知等に使うための撮影であっても、「こういう活動をしていることをいろんな方に伝えたいので、写真を撮ってもよいでしょうか」など、一言添えて許可を得るようにしましょう。ご自身のお気持ちも含めて伝えれば、参加者の方は安心します。
「写真を撮られる方は、ほかの方の顔が写らないようにご配慮ください」など、参加者への声掛けも必要です。わたしが開いた場では、写真に写りたくない人向けの席をあらかじめ設けたこともありました。こうすれば、写真を撮りたい方はいちいち断らなくてもその席を避けて撮影すればよいので、双方に心地よく参加していただくことができます。

・身体的な境界線がおびやかされる
人の体に触れるワークをプログラムに入れるときは、例えそれが手や指だけのものであっても、配慮が必要です。また、ワーク中に衣服がずれたり、正座をすると気になったりする服装もあります。告知文であらかじめ「襟元が詰まった服装でお越し下さい」とか「体を動かすワークがあるので、スカートよりパンツスタイルがおすすめです」などと伝えておくと、安心して参加できます。また、体が不用意に触れないような席の配置やグループ分けが必要な場合もあるでしょう。特に女性の参加者がいるときは、より細やかな配慮が必要です。

・ネットワーキング勧誘
中には、カルト宗教やマルチ商法、参加者の個人的なビジネスの宣伝などを行う人もいます。ほかの参加者が嫌そうな表情をしている場合や、何かおかしい様子が見られた場合はその場で介入して「この場ではそういったことはご遠慮ください」とはっきり伝えるようにしましょう。

いずれのケースにおいても重要なのは、それぞれの参加者が持つ境界線や権利が守られているか否かです。NOと言えたり、選択できる権利があるだけでも参加者は安心し、安全を感じながら心地よく過ごすことができます。想像力を働かせて、安心・安全がおびやかされる状況を無意識に強要していないかを意識するのが、守人の役割なのです。

<後編に続く>

記事ラインナップ

#0 introduction
#1 なぜわたしは場をつくるのか
#1.5 自分の「本質」から、場はスタートする
#2 交流とつながりは場の設計が肝心
#3 また行きたい!と思える場をつくるには
#4 分かち合うための表現を鍛えよう
#5-1 安心、安全な場のために知っておきたいリスクの話・前編(本記事)
#5-2 安心、安全な場のために知っておきたいリスクの話・後編

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