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場づくりを成功させるための5つの鍵 #4 分かち合うための表現を鍛えよう

2019.07.30 TUE 20:59
執筆 舟之川聖子 構成 増山かおり
PROFILE

舟之川聖子(ふなのかわ せいこ)

鑑賞対話ファシリテーター、場づくりコンサルタント

滋賀県生まれ。東京都在住。一人ひとりとの関係や交流を大切にする場のデザインや場をつくりたい人のサポートをしている。 2011年より場づくりを学び、ワークショップデザインやファシリテーションのプログラム開発、講座講師、ブッククラブや百人一首のコミュニティ運営に携わる。舞台や展覧会の鑑賞対話会、映画上映会、オンライン読書会、読み聞かせ、一箱古本市、ポッドキャストなどの活動を通して、多種多様な場の可能性を日々探求中。
web: http://hitotobi.strikingly.com/
note: https://note.mu/hitotobi
twitter: https://twitter.com/seikofunanok

■参加者は何を見て判断するのか

人は、チラシやホームページに書かれたイベントの内容(何をするか)だけで場を選んでいるわけではありません。イベントのタイトルやチラシのデザイン、文章から主催者の感性にふれたり、過去のイベントの写真から雰囲気を想像したり、ホームページからそこで普段どのような活動をしているのかチェックしたり。読み手は主催者が想像する以上に様々な材料判断を元に、どんな場なのか、行くとどんな体験ができそうかを総合的に受け取って、参加するかどうかを判断しているのです。
ウェブやチラシなどの告知媒体を作るときには、開催日時などの必要事項やプログラムの内容に意識が向きがちですが、わかっているだろうと思われる要素もあえて書いておくことで、参加を促すことができます

例えば、以下のような項目は一見些細なことのようですが、参加したいという気持ちを後押ししてくれる要素の例です。ぜひ取り入れてみてください。

・対象者
主催者側で想定している参加者、つまり「誰向けの場なのか」「どんな人にきてほしいか」を載せます。プログラムに参加するために必須の要件、ふさわしい条件があればそれを書きます。例えば、「18歳以上の方」「がんの患者さんとその家族」「坐禅がはじめての方」など。要件が特にない場合も、「怒りやイライラの対処法に関心のある方ならどなたでも」など、対象者に当たるかどうかの判断を読み手にのみ委ねるのではなく、主催者の側からはたらきかける姿勢をこの項目で表現しましょう。

・ 個人名やプロフィール写真
お寺や主催者の団体名だけでなく、住職や主催者個人の名前、プロフィール写真など、「顔の見える」情報です。どんな人が場を開いているかが伝わると、参加者にとってその場が身近なものに感じられ、参加しやすくなります。

・ 場の雰囲気を伝える写真
過去に開催した場の様子がわかる写真があれば、ぜひ告知に取り入れてください。「こんな明るい雰囲気で開催されているんだな」「授業のように同じ方向を向いて座るのか」「いろんな人と交流できる場なんだな」など、たった1枚の写真だけでも、思いのほか多くの情報を伝えることができます。過去の開催例の写真がなくても、近いイメージ写真があれば、参加者はなにかしらの雰囲気を読み取ってくれるものです。

・ どのくらい交流が生じる場なのか
メインのプログラムはもちろん、懇親会や茶話会など、他の参加者や主催者との交流を想定している場合、その旨を書いておきましょう。どんなテーマで話すのか、主催者が仕切ってくれるのか、来た人同士の自発的な会話に委ねられているのかなど、どのくらい深く関わるのかもわかるとより安心して参加できます。

・ 駅からのアクセス
最寄駅からのアクセス方法や地図を載せるのも参加者にとってよい助けになります。細かいことですが、最寄駅だけでなく、最寄りの改札や出口が書かれているだけで、参加者の安心度はぐっと高まります。住所しか書かれていないケースも見かけるのですが、仮に檀信徒の方中心の場だからわかっているだろうと思われるときでも、あえてこうした情報を入れておくと場への安心感や信頼感が増すこともありますし、親切さが伝わります。

参考までに、過去にわたしが定期開催していた「かるたCafe」のページをご紹介いたします。
https://cartacafe.jimdo.com
「かるたCafeについて」のページを開いていただくと、上記の項目の具体的なイメージがつかみやすいかと思います。

■ 告知は一度でなく二度三度と

参加者が少なかった場合、場の中身に問題があるのではなく、単に告知が行き届いていなかっただけということはよくあります。寺報や掲示板、チラシで告知したり、親しい方に口頭で伝えたりとさまざまな告知方法がありますが、「伝えたつもり」になってしまっていないかな? と振り返ってみることが必要です。以下のような点を意識してみましょう。

・ 複数のツールで告知する
掲示板や寺報などお寺特有の告知方法のほか、ブログ、ホームページ、TwitterやFacebookなどのSNS、Peatixなどの告知サイト、そのほか公民館やカフェなど、地域特有の情報が集まる場所など、伝えかたにはさまざまな方法があります。ぜひ一つの方法だけでなく、いくつかのツールを使って告知してみましょう。
使ったことのない方法がある場合、そういうツールが得意なお子さんやご友人、またはお寺に来てほしい人と同世代の人などに力を借りて活用してみましょう。
ご高齢の方を対象とした場を開く場合、インターネットを介した方法では告知につながらないのではと思うことがあるかもしれません。ですが実際には、「Twitterでこんなイベントを見つけたよ」とお子さんやお孫さんなどがお知らせしてくれることもあります。

・何度かに分けて告知する
開催当日に向けて何度か告知するのも、参加を迷っている方の背中を押すよい方法です。ブログやSNSなどを使って、準備の様子やどんな方からの参加申込があったかなど最新の情報を伝えることで、告知を目にした方の期待を高めることができます。チラシなどに書ききれなかった思いをあらためて伝えられるのもメリットです。告知を一度だけで終えるよりも、はるかに多くの人に情報が届けられます。

・「リマインドメール」を活用する
メールアドレスを添えて申込みしていただいた場合に、受付完了のお知らせとは別に、当日の3日ほど前に送信するメールです。持ち物や、悪天候が予想される場合の注意事項を伝えるほか、お会いできるのを楽しみにしている気持ちを伝えることで予定を思い出してもらい、急なキャンセルを防ぐ目的もあります。

■リード文で自分の「思い」を伝える

冒頭でもお伝えしましたが、人は単にイベントの内容や必要事項だけを見て場に参加しているわけではありません。
どんな思いで場を開いたのか、どんな方に来てほしいのか、参加することでどんなものを持ち帰ってほしいのか。そんな思いを伝えるためにあるのが、タイトルの後に続けて、場に対する思いを書く導入文(リード文)です。
さきほどご紹介しました「かるたCafe」のサイトでいうと、「ごあいさつ」の部分に書かれているのがリード文にあたります。

文章を書くことに苦手意識のある方も多いかもしれません。ですが、告知文を読む人は美しい文章を期待しているわけではありません。参加するかどうかを決めるために、主催者がどんなことを考えてこの場を開いたのか、たどたどしい文章でもいいから知りたいのです。このリード文を考える過程で、自分がこの場をひらきたい本当の思いに気づき、リード文で伝えたいことに合わせてプログラムの中身を変えることもよくあります。また、連続開催する場であっても、回を重ねて場が育っていくにつれて、変えていってかまいません。むしろ毎回見直しましょう。このリード文は、それほど重要なものです。

この連載でお伝えしてきた「なぜわたしは場をつくるのか」というメッセージを、ここに盛り込んでいきましょう。「自分が第一の顧客になる」という言葉がありますが、まさにそんな気持ちで、自分自身がその場に参加したいと思える文章になっているかどうかを意識するとよいでしょう。
「興味はないけれど、みんなにとって必要そうだから」とか「流行っているから」という理由では、やっぱり場をつくる力は湧いてきません。ご自身の課題意識はどんなところにあるのか。日々何を大事にしているのか。どれだけその場に愛情や熱意を持っているのか。

リード文に自分のそんな気持ちがこもっているかどうかを確認する作業は、自分が望む場づくりができているかどうかの点検にもなるはずです。

■ 人から表現を学ぼう

多くの人や、思いを届けたい方に響く表現を磨くには、参加者としての感度を高めることも必要です。身近な方の客観的な意見を聞いたり、ご自身がほかの場で参加者になったりすることで、主催者の立場からは見えにくい要素に気づくことができます。告知の内容や方法を工夫するだけでなく、日頃から以下のような方法で参加者としての視点を意識してみましょう。

・場づくりにも「リハーサル」を
本番前にリハーサルをしたり、告知文を人に見てもらうのはとてもおすすめです。製品テストのように、ご家族やご友人などに当日のプログラムを仮体験してもらい、感想を述べてもらいます。「ここがわかりにくい」「内容と告知文とが一致していない」「この内容だとこういう参加者が集まりそう」といった客観的な意見をもらうことで、場の完成度も告知の精度も高まり、よりよい場づくりにつながります。
リハーサル参加者はFacebookなどで募るのもよいでしょう。私もそのように告知してリハーサルを行ったところ、今も継続する場につなげることができました。よりよい場づくりのために、ぜひ試してみていただきたい方法です。
 
・他の人の告知に学ぶ
ご自身がほかのイベントなどに行くことがあったら、チラシなどをじっくり見て想像し、体験したことを記録しておきましょう。自分ごととして告知や場づくりの現場を見ることができるので、参加者の視点を養うのにとても役立ちます。
例えば、次のようなことを意識してみましょう。自分はどうやってこのイベントのことを知ったのか、この告知を見て自分は何を期待したか、何に惹かれて行ってみようと思ったのか。実際に行ってみて、想像と違った点やわかりづらかった点はないか。自分が予想していた主催者や参加者と、実際に来ていた人はどう違っていたか。
こうしたことを頭の中で、あるいはメモなどを使って言語化することで、ご自身の目指す場を適切に表現する技術を磨くことができます。余裕があれば、場づくりの練習も兼ねて、ブログなどにイベントに参加した感想を記録しておくのもおすすめです。また、わたしも普段やっているのですが、ほかの人が作る場の告知チラシを資料として取っておくのも役立ちます。ご自身が参加する予定のない場であっても、伝え方の参考になると感じたものがあれば、ぜひ取り入れてみましょう。

告知の表現を鍛えるのは、単に多くの人に来ていただくためではありません。参加者目線での場の準備や事前の分かち合いがあってこそ、当日集まった人たちと実際に生み出す場がくれる感動が、より大きなものになるからです。

次回は、場をつくる守人にとって重要な「安心・安全な場のために知っておきたいリスクの話」をお送りします。

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