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場づくりを成功させるための5つの鍵 #5-2 安心・安全な場のために知っておきたいリスクの話 (後編)

2019.08.09 FRI 19:28
執筆 舟之川聖子 構成 増山かおり
PROFILE

舟之川聖子(ふなのかわ せいこ)

鑑賞対話ファシリテーター、場づくりコンサルタント

滋賀県生まれ。東京都在住。一人ひとりとの関係や交流を大切にする場のデザインや場をつくりたい人のサポートをしている。 2011年より場づくりを学び、ワークショップデザインやファシリテーションのプログラム開発、講座講師、ブッククラブや百人一首のコミュニティ運営に携わる。舞台や展覧会の鑑賞対話会、映画上映会、オンライン読書会、読み聞かせ、一箱古本市、ポッドキャストなどの活動を通して、多種多様な場の可能性を日々探求中。
web: http://hitotobi.strikingly.com/
note: https://note.mu/hitotobi
twitter: https://twitter.com/seikofunanok

■ 主催者自身の安全

安心・安全は参加者だけのものではありません。往々にして抜けがちなのが、主催者にとっての安心・安全です。前編で挙げたようなリスクは参加者間だけでなく、主催者と参加者の間でもしばしば起こります。
加えて、ぜひ知っておいていただきたいのが「タフラブ(tough love)」という概念です。アルコール依存症の家族の会の方々が使い始め、アメリカで広がった考えです。心の問題を扱う場では、話を聞いてくれる相手に際限なく依存してしまったり、聞き手が「自分が話を聞かなくなったらこの人は自殺してしまうんじゃないか」と苦しんでしまうような現象がありますよね。相手がストーカーのようになってしまい、相談を受けた側が追い込まれてしまうこともあります。お寺は心の問題を扱うことも多い場だけに、こういうことが起きる可能性も十分あり得ます。こうした依存的な愛ではなく、互いの境界を守りながら、厳しい愛の精神を持って相手を支えるのが「タフラブ(tough love)」です。
依存的な関係を作らないためには、自宅の住所や電話番号など、ご自身の情報を教えすぎないことがまず重要です。そして、何でも話せる友達や問題を解決する専門家としてではなく、「僧侶であるわたし」として聞くという姿勢が必要です。
人間の多様なあり方を受け入れるということは、どんな人も自分の境界を超えて受け入れることとイコールではありません。社会支援団体や行政、医療関係者、カウンセラーなどにつなぐのが適切だというケースもたくさんあります。一人でその方の悩みをすべて受け止めようとせず、ご自身の避難場所や相談窓口を持っておくのも大切なことです。

■ 場の安心・安全はすべての人のためにある

また、迷惑行為とまではいかなくとも、その場にいる人が安心して過ごせない状況はよくあります。例えば、参加者が話す場面でつい長々と話し過ぎてしまったり、場の趣旨と外れる振る舞いをしたりする方がいる場合などです。明らかに悪いと言い切れない状況に対しては注意がしづらいため、そういった参加者にどう接したらよいのか、頭を悩ませている方も多いかもしれません。わたしにも同じような経験があるのですが、そういう人に注意がしづらく何も言えずにいたら、その場を楽しんでいたはずの他の人たちが、だんだん来なくなってしまったことがありました。こういうときは大抵、守人だけでなく、ほかの参加者の人もやりづらさや居心地の悪さを感じているものです。ですが、そのことを表明するのは負担が大きいので、何も言わずに去ってしまい、もうその場に来なくなってしまうことも多いのです。
かといって、人をその場から排除すれば済むという話ではありません。誰かを否定するのではなく、守人がすべてを引き受けなければならないわけでもありません。もちろん、他の参加者に我慢を強いるのも違います。どんな場も、その場をつくり、その場に集うすべての人が尊重されるものであってほしいと思うのです。それはすべての参加者はもちろん、場を守るみなさんも等しく尊重される場です。そんな場を守るために、守人は以下のような毅然とした対応をとることも必要です。

【すべての人が安心・安全な場で過ごすための守人の心得】

1.告知の段階でフィルタリングする
「誰でも来ていい」という場が必ずしもベストとは限りません。対象者を広げすぎて「困った人」が生まれる結果になっているのであれば、できること・できないことを告知の段階で線引きし、参加者を限定することも必要です。
例えば、心の問題を扱う場の告知文で「アドバイスをしたり聞いたりする場ではなく、ご自身が抱えている問題に気づく場です」とか「専門的な知見をやり取りする場ではないので、必要な方は専門家をお訪ねください」といった一文を載せるなどです。「こういう方・行為はご遠慮ください」とはっきり示し、この場で提供できないラインを伝えておくことで、参加者が期待することと、場が実際に提供できることとのミスマッチを防ぐことができます。
大人の参加を前提とした場にお子さんを連れていきたいというケースなども同様です。受け入れるほうが優しいんじゃないか、と思いがちですが、準備が整っていない状況でむやみに受け入れてしまっては、その方も子どもも他の参加者も安心して過ごすことができません。「こういう理由があるので、今回はお断りさせてください。でも来たいと思っていただけたお気持ちはとても嬉しいです」といった言葉を添えて誠実な気持ちで向き合えば、参加をお断りしたとしても、決してその人を「排除」することにはなりません。

2.現場での介入
ワークショップなどでつい長く話しすぎてしまう方や、趣旨をはずれた振る舞いをしてしまう方がいた場合には、その方を尊重しつつ対応することを心がけましょう。「ついいっぱい話したくなっちゃいますよね〜」「そんな話も出てきちゃいましたか(笑)。で、話を戻すと……」といった言葉で、ユーモアを交えつつ、優しく話を引き戻します。場合によっては「そうですね〜、ありがとうございました」と言って話を区切り次の人にバトンを渡すなど、ある程度強制的な仕切りも必要です。最初のうちは割って入って話を止めるのは難しいと思うのですが、止められるのは自分しかいない! という使命感を持ってトライしてみてください。他でできない話ができる貴重な場では、参加者の方は嬉しくてつい話しすぎてしまうものです。みんなでいっしょに楽しく過ごそうという気持ちと優しいユーモアがあれば、さまざまな人を受け入れながら、よい場がつくれるはずです。

3.場をあらためる提案
質疑応答の場などで、主催者に対し攻撃的な発言で優位に立とうとするケースも見られます。そんなときは、行為自体はストップしてもらいながらも、あくまでその参加者を一人の人間として尊重する姿勢を忘れずにいてください。「後でスタッフと詳しく伺います」と伝えて一度休戦してもらうのがいいでしょう。仮にひとりで運営されているとしても、一緒に場づくりをしている人が他にもいるというニュアンスで伝えると、それ以上追及の矢が飛んでこなくなることもあります。また、「ここはそういった議論の場ではないので、メールで話しませんか」といった提案で、一度場をずらすことも有効です。いずれにしても、その人に恥をかかせず、一人の人として尊重しているという姿勢を伝えることが、よい結果につながります。

4.場を一から仕切り直す
ここまでお伝えしてきたような対策を取っても場が改善しないときは、一度場を休むなどして、場を仕切り直すことも考えましょう。特に長く開いてきた場の場合、回を重ねるうちに誰に向けた場であったのかわからなくなってきたり、最初に想定していた方向からずれてきたりすることがあります。
参加者のふるまいは、そういう状況を映す鏡のような存在です。場で困ったことが起きるということは、もしかしたらご自身の課題を示すサインなのかもしれません。「人にあまり強くものが言えない」とか「誰にも嫌われたくない」といった心が、結果として場に表れてくることがあるのです。場がうまくいかないときは、ご自身を振り返るきっかけが訪れたと捉えることもできるのです。

■ 困ることを恐れない。むしろ自分が生きやすくなる

こういったリスクを考えると、場づくりをためらってしまう方もいらっしゃるかもしれません。ですが、こうした状況が自分を成長させてくれるというのも、また事実です。わたしも場を作るようになってから、見た目でわからない障害や困難を抱えている人にどんなサポートをしたらいいのか、どうやったらいっしょに場にいられるのか、より深く考えるようになりました。
いろいろな困りごとを経験すると、それまでは思いもよらなかったマイノリティの存在に気づけたり、悩んでいる方の話がより深く聴けるようになっていきます。さまざまな社会課題に目が行くようになり、世界を理解しやすくなります。どんな人とでも付き合えるようになるし、自分の役割を離れた普段の人間関係にも、この経験が生きてくるのです。ですから、場づくりのリスクをむやみに恐れたり排除したりするよりも、問題が持ち込まれ、それを適切な場につなぐことにお寺の役割があると捉えてよいのではないでしょうか。
場でうまく振る舞えない人のケアに向き合うことで、個人や団体、行政などのプロフェッショナルとのつながりも生まれます。場で起こる困りごとが地域の課題に気づく契機だと考えれば、ご自身が開いている場の可能性も広がるのです。

《場づくりを成功させる5つの鍵》について、これまでお送りしてきましたが、いかがでしたか。

よい場をつくるために必要なのは、プログラムだけに磨きをかけることでも、人を圧倒し導くような力でもありません。場づくりでもっとも大切なのは、場と場に集う人々を守ろうとする意識です。その「人々」の中には、お寺に来てくれる方だけでなく、場をつくるご自身もいることを忘れないでいてください。
それは、参加者も守人であるあなたも、一人ひとりがその人らしくいられる場ということです。安心安全で健やかな関係の中でのびのびと表現し、ここでしかできない体験ができる場。配慮や敬意や誠意を持てる適切な距離を保ち、自立した精神を持ちながらも他者を必要とできる場。

みなさんと一緒にそんな場をつくれたなら、幸せです。

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