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場づくりを成功させるための5つの鍵 #1.5 自分の「本質」から、場はスタートする

2019.01.15 TUE 07:18
執筆 舟之川聖子 構成 増山かおり
PROFILE

舟之川聖子(ふなのかわ せいこ)

鑑賞対話ファシリテーター、場づくりコンサルタント

滋賀県生まれ。東京都在住。一人ひとりとの関係や交流を大切にする場のデザインや場をつくりたい人のサポートをしている。 2011年より場づくりを学び、ワークショップデザインやファシリテーションのプログラム開発、講座講師、ブッククラブや百人一首のコミュニティ運営に携わる。舞台や展覧会の鑑賞対話会、映画上映会、オンライン読書会、読み聞かせ、一箱古本市、ポッドキャストなどの活動を通して、多種多様な場の可能性を日々探求中。
web: http://hitotobi.strikingly.com/
note: https://note.mu/hitotobi
twitter: https://twitter.com/seikofunanok

前回お伝えした、場づくりの技術の1つめの鍵は、「なぜわたしは場をつくるのか」でした。
これは場づくりにおいてとても重要な要素なので、具体例を交えながら、もう一度詳しくお伝えしたいと思います。

■ 自分の「本質」を核にした場づくり

「お寺で読書会ができたらいいね」「こういうイベントもいいんじゃない?」
イベントを企画すると、こんなふうにわーっと考えや話が盛り上がってくると思うのですが、ひと通り思いを巡らせたあとに、自問自答してみてほしいのです。

なぜ、読書会という方法なのか?
なぜ、それをお寺でやらなければならないのか?
そもそも、人に集まってもらいたい理由とは何なのか?

ビジュアルがかっこいいとか、キャッチーなテーマであるとか、そういう上辺を整えただけでは、一度は来てもらえても、なかなか再び足を運んでもらうには至りません。だからこそ、自分の本質から発した企画であることが鍵になります。
「本質」は、その方個人の思い入れや、原体験と結びついているものです。そのため、すべてのお坊さんに共通するひとつの正解があるわけではありません。僧侶になった経緯も一人一人違うし、住む地域も違う。問題意識も、得意分野もそれぞれ違うはずです。以前、勝浦と宇都宮のお寺の僧侶の方にインタビューをさせていただいたことがあるのですが、お二人から受ける印象は大きく違いました。場づくりをする人が変われば、同じテーマでも場はまったく違ったものになります。
自分の本質とつながらない価値観で企画を立て、自分ではいいと思っていないのに「こうしたほうが人が集まりそう」と考えて設計したために、自分の身を削られるような場になってしまうことも少なくありません。反対に、自分の本質を核にした場づくりをすればスムーズにいきますし、集まった人も主宰した自分も共に育まれるような、よき循環が生まれます。

■ マイナスの出来事や感情を恐れない

イベントを始めてみたいけれど、いろいろな不都合が思い浮かんで、なかなか足を踏み出せない方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、いざイベントを始めたものの、人がなかなか集まらなかったり、トラブルへの対応に疲れてしまったりすることもあります。
そんな方の頭の隅に置いておいてほしいのは、いざ場づくりを始めたら、色々なことが起きるのが普通だということです。例えば、あそこのお寺にはあんなにたくさん人が来ているのに、うちのイベントには人が集まらない、と歯がゆく思ったりすることもあるかと思います。せっかく開いたイベントがうまくいかないのは、当然怖いことです。恐れや不安、嫉妬、劣等感といった感情が湧いてくることもあります。
でも、そういったマイナスのことを恐れず、「こういうこともあるよね」と思いながらやっていくことが場づくりを進展させてくれるのです。
うまくいかないことが起こるからこそ、「なぜわたしは場をつくるのか」という問いに向き合い、本質に立ち戻って考えることができます。そのことによって、かえって場づくりがしやすくなるのです。人のために場を作っているようでいて、かえって自分が育まれていることを、わたし自身いつも感じています。つまり、「なんだかうまくいかないな」と思ったら、それはいわば素敵なお知らせなのです。場づくりに取り組んだからこそ受け取れる、ギフトのようなもの。それを体験していただきたくて、いつもみなさんに「まずはやってみましょう!」とお伝えし続けています。

■ 主催者側の視点を養う

「わたしはなぜ場をつくるのか」を考えるために、人のイベントを観て観察することもおすすめです。
参加者の時は、参加者から見た風景しかわかりません。場をつくるためには、主催者側の視点に立つことが必要です。イベントを主催者になったつもりで観察することは、その視点を養うのに役立ちます。
人のイベントに行ったら、その構造を自分なりに観察してみてください。そして、「最初の5分でこういう話をしているんだ」「次にこういうプログラムを入れているんだな」などとメモします。主催者がどういう振る舞いや言動をして、その場にいる人たちがどんな反応をしたのか。これも観察します。イベント中にあなたが面白く感じたり、不快感を抱くような瞬間があれば、それはなぜだろう? と考えてみるのもいいでしょう。
人のイベントを見て「こうならなきゃいけない」と考えるのではなく、「こんなこともできるんだ」と参考にしながら観察すれば、ご自身の場づくりに生かせるヒントが見えてくるはずです。

■ 僧侶としての本質と、個人としての本質

僧侶のみなさんは、僧侶という社会的な立場が足かせになって行動をためらってしまうことがあるかもしれません。でもそれを恐れず、あなた個人の思いや原体験に踏み込んだ場づくりに挑んでみてください。ひとりの僧侶、あるいはお寺として果たすべき義務や責任といった「僧侶としての本質」だけでなく、こういう場を作りたい、こんな方々と交流したいといった「個人としての本質」が、みなさんの胸にあるはずです。その2つの輪が重なるところにこそ、ご自身のお寺で場づくりをする意義が潜んでいるのだと思います。
そうした本質の重なる部分を表す言葉は、仏教の聖典の中にもたくさんあるのではないでしょうか。それは尊厳、調和、平和、親密さ、貢献といった言葉にあたるものかもしれません。みなさんそれぞれが、そういった言葉をたくさんお持ちだと思うんです。それは、「あなたにとって仏教とは何か?」という根源的な問いにもつながるものだと思います。

記事ラインナップ

#0 introduction
#1 なぜわたしは場をつくるのか
#1.5 自分の「本質」から、場はスタートする(本記事)
#2 交流とつながりは場の設計が肝心
#3 また行きたい!と思える場をつくるには
#4 分かち合うための表現を鍛えよう
#5 安心、安全な場のために知っておきたいリスクの話

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