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お寺スペース・リノベーション #4 御宝前×あかり

お寺が「あかり」で変わる。前回は、仏像を魅せる照明設計についてご紹介しました。今回のテーマは「御宝前のあかり」。ご本尊に手を合わせ、法事や坐禅会が行われる御宝前。それぞれのシーンにふさわしいあかりが演出できるとしたら……?

2018.06.27 WED 15:22
構成 島田ゆかり / 撮影 山田英博、松村和順
PROFILE

吉塚 奈月(よしづか なつき)

お寺スペースアドバイザー(照明のスペシャリスト)

パナソニック(株)エコソリューションズ社ライティング事業部勤務。美術・博物館、景観、公共施設などの照明のコンサル、設計を手掛ける。光の専門家であり、文化財の保存と光の関係などにも精通。照明学会「美術館・博物館の次世代照明基準に関する研究調査委員会」委員。

■全体的に明るいだけの照明になっていませんか?

お寺×あかりの記事でもご紹介しましたが、あかりはそれだけで空間を変え、演出することができます。もし今現在、ご自坊の御宝前全体が均一に明るい照明で照らされているとしたら、あかりを変え、光のメリハリ・照度差を作ることで、より重厚感のある空間を作ることができます。

御宝前には、葬儀や法事、坐禅会、写経会、読経会、檀家さんの集い、子どものイベントなど、さまざまな用途があると思います。しかし、あかりはどうでしょう? それぞれのシーンで変えることはなく、照明をつける、消す、調光で少し暗くするなどで対応している場合が多いのではないでしょうか。

悲しみに向き合ったり、心を落ち着けたり、集中したり、仏様に手を合わせたり。人はさまざまな気持ちで御宝前に集います。シーンごとにあかりを変えることで、より印象的で、心に深くしみる体験ができるのです。

■あかりのパターンをシーンごとに設定する

では、どうやってシーンごとに照明を変えるのでしょうか。今は、照明パターンを複数セットできる調光器があります。法事バージョンや坐禅会バージョンなど、シーンごとに照明設計をし、それを記憶させた「シーン選択ボタン」を押すだけで簡単にあかりを変更することができます。

あかりでシーン設定をする場合、やはりLED照明がおすすめです。LED照明の利点に、あかりの色や明るさを自在に変えやすい点があります。蛍光灯でもあかりの光色を変える事(調色)は可能でしたが、高額で大型な器具が必要な為、汎用的ではありませんでした。LEDでは技術が進歩し、比較的低価格な小型器具で光色を自在に変えられる事が可能です。またLEDは、明るさを落としても(調光)、赤っぽくならないという特徴があります。白熱電球は、調光器で明るさをどんどん絞っていくと、赤い光になってしまいますが、LEDでは明るさを落としても色温度は変わらないので、低照度でも自然なあかりを作れます。

今回は、4つのシーン設定のあかりをご紹介したいと思います。

■御宝前で活用したい4つの照明パターン

こちらは千葉県勝浦市にある妙海寺で、実際に導入した4つのシーン設定のあかりです。これまでの均一で全体に明るい照明からの空間の変化をご覧ください。あかりの変化だけでこれだけ印象が変わるのです。

Before(照明工事前。主に蛍光灯による照明)

パターン①スタンダードなあかり

まずは、これまでの均一なあかりからメリハリのある空間に変えたあかり。空間に光の陰影を与える事で内陣が際立ち、ご本尊に自然に視線が向かうように設計されています。以前のフラットな印象の空間から重厚感がアップしています。法事や法話会など、もっとも汎用性の高いスタンダードなあかりです。

パターン②お通夜のためのあかり

お通夜やご葬儀のためのあかり。中央の遺影と棺にあかりを集め、故人の人生の最後に光をあてるという演出です。ご参列者様の視線や気持ちが、自然と故人に向かいます。また供花や参列者側の空間にも適量の光を配置し、空間全体を柔らかな明るさで包む事により、参列者の悲しみを癒します。写真は、お通夜をイメージしたものです。ご葬儀は日中に行われるケースがほとんどですので、外からの光が多く入り、全体的に明るい雰囲気になることが想定されます。

パターン③瞑想のためのあかり

坐禅会や瞑想のためのあかり。照度を落とし、心を落ち着けられるあかりの設定です。ただ暗くするのではなく、天井から低色温度の拡散光でうっすら包む事により、緊張感をほぐし安らぎを持たせられます。また薄暗い空間の中で、御宝前の蝋燭や光を受けた金色が浮かびあがり、心に落ち着きを与えます。人間の目は明るさに慣れやすいのに対し(明順応)、暗さに慣れるのに少々時間がかかる為(暗順応)、明るい外部から瞑想空間に入る場合は、目と心が自然に順応出来るよう、廊下の明るさを控えめにするのが良いでしょう。

パターン④

こちらは全照バージョンです。掃除のときや、子どもたちが集うイベントなど、御宝前を明るく設定したい場合に活用できます。スイッチ一つですべてのあかりがつくのも便利です。

これらのシーン設定は、ご自坊の用途に合わせて自由に設定することができます。

あかりを使い分けることでシーンが変わり、空間の印象が格段に変わることがおわかりいただけたでしょうか。あかりで演出された御宝前のさまざまなシーンが、皆さまの心に残る体験になるはずです。

※ 寺院での照明設計について、お寺スペースアドバイザーがご相談にのります。

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