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お寺スペース・リノベーション #3 仏像×あかり

今、ご自坊の、御本尊を始めとする仏像はどのような光でその姿を浮かび上がらせているでしょうか? あかりには目的に沿った雰囲気・見え方を生み出す“演出性”の効果があります。だからこそ、適切な照明設計が為されなければ、意図する雰囲気を壊しかねません。この記事では、照明設計のスペシャリストが、祈りの空間の仏像にふさわしいあかりについて解説します。

2018.05.09 WED 10:00
構成 島田ゆかり / 撮影 山田英博 松村和順
PROFILE

吉塚 奈月(よしづか なつき)

お寺スペースアドバイザー(照明のスペシャリスト)

パナソニック(株)エコソリューションズ社ライティング事業部勤務。美術・博物館、景観、公共施設などの照明のコンサル、設計を手掛ける。光の専門家であり、文化財の保存と光の関係などにも精通。照明学会「美術館・博物館の次世代照明基準に関する研究調査委員会」委員。

■ 祈りの対象としてどう見せるべきか

前回、「お寺×あかり」の記事でもご紹介しましたが、あかりには目的に沿った雰囲気・見え方を生み出す“演出性”の効果があります。こちらの2つの写真をご覧ください。

左は直進性のあるLEDで仏像に焦点を当てた状態、右は拡散光である蛍光灯で空間全体を明るく照射している状態です。仏像の見え方、印象がまったく異なるのがわかります。

信仰の対象としての荘厳さや存在感は保ちつつ、仏像をどのように見せたいかはお寺により様々な為、意図する見え方となっているかは、各寺ごとに確認する必要があります。また、参拝者からすると、仏様の表情がよく見えない、ぼんやりしている印象というのはやや気持ちを向けにくくなる為、お顔やお姿を見たいという欲求が起きます。

祈りの対象としての仏像が、意図する見え方になっているかと同時に、参拝者に対して仏像のお顔や表情が見えているか、その存在が荘厳で際立って見えるようになるよう、あかりを設計することが重要なのです。

■光の方向による陰影効果

たとえば、人物の顔や像などを、真下からだけの光で照射すると、奇怪な印象となります。一方、曇天下のように、ほとんど全ての方向から同じ強さの光を受け取ると、立体面に生じるハイライトとシャドウは非常に薄く、平坦な印象となります。仏像のような立体物に対して、適切な方向から適切な指向性強度の照明光を当てることを「モデリング」といい、見え方に重要な影響を与えます。

ここで、能面の例で光の当て方による印象の違いをご紹介しましょう。いずれも同じ能面ですが、
これだけ見え方が変わるのです。あかりひとつで表情が優しくも、厳しくも変化するのがわかります。

-1(斜め45°からの光)
立体感の誇張されたおだやかな像が浮かび上がり、能面に優美さ、優しさなどの印象を与えます。

-2(真上からの光)
照射されるものの形によっては、繊細な立体感がつぶれてしまい、不明確な照明になります。また能面の目元の表情が見えなくなり、無機質や不安な印象を与えます。

-3(真横からの光)
立体感を強烈に表現し、照射されている物の正確な形状はつかめませんが、コントラストのおもしろさで印象的に見せています。また能面の彫りが強調され、凛々しさや硬い印象を与えます。

-4(真下からの光)
目新しい効果を得るための演出をする照明。本来は不自然な光のため、一般的な能面などを正しく見せるには適しておらず不気味な印象ですが、ガラス、金属などの抽象的造形には効果的な場合があります。また、適正な光量であれば威厳感や浮遊感を醸し出しますが、光量により怖い印象も与えます。

では、仏像はどうでしょうか。下の4枚の写真は妙海寺の客殿にある仏像です。

-1(斜め上からの光)
全体のお姿とお顔が見やすく、柔らかな印象を与えつつも、光背の影がソフトな威厳感・神々しさを演出しています。また精巧な造形や木の素材感も感じられます。

-2(横からの光)
影の濃淡や輪郭線が濃い為、立体感が際立ち、暗闇から半分だけお姿を現したような強い印象を与えます。不動明王など、力強さを印象付けたいような仏像の場合は、このようなあかりは効果的ですが、影側が見え辛くなる為、光の方向性への配慮が大切です。

-3(全体的に均一にあてた光)
全体的に平坦な印象で、威厳性や神々しさがなく、空間の一部となった印象です。またお顔の彫り等が分かり辛い為、おぼろげな印象になっています。

-4(下からのあかり)
ろうそくの存在感が目立ち、浮遊感のある印象です。瞑想など暗さを必要とする場では効果的ですが、お顔や精巧なディテールを拝見することは出来ません。もう少しお顔に光を照らせたら、威厳感や暗闇から浮かび上がるような存在感も演出できます。

あかりによる印象の違いを感じていただけましたでしょうか。あかりには “演出性”の効果があるからこそ、祈りの対象としての仏像が、意図する見え方になっているか?気をつけなければ、意図する雰囲気を壊しかねません。だからこそ、あかりを設計することが重要なのです。

■視線を促すあかりの効果

照明設計の目的のひとつに、「対象物に自然に視線を促す」というものがあります。本堂の場合は、ご本尊を見ていただきたい。こちらの写真で比較してみると、左側は視線のポイントが定めにくいあかり。右側は視線が自然にご本尊に向かいます。これもあかりの特長です。

祈りの空間において、仏像などご本尊の存在は尊く、その場に自然に美しく浮かび上がるような演出がふさわしいと考えます。ご自坊の仏像をどのような表情で、どのような存在感で見せたいか。あかりのあて方で、それらは変えることができるのです。

そしてもうひとつ。仏像とあかりを考えた時に、とても重要な要素があります。それは「保存」という観点です。光に含まれる紫外線や赤外線により、仏像に損傷や変退色が発生しますが、これは照射された光の量(照度×照射時間)に比例します。光源により損傷の度合いは異なりますが、自然光が最も損傷度合が高く、白熱灯やハロゲンも高い数値となります。

近年仏像の公開などによる観光客の増加もあり、仏像に光があたる機会も増え、より光放射による損傷への対策が重要となってきています。その為国宝や文化財などを博物館・美術館などで展示する場合、紫外線も熱もほぼ含まないLED照明が採用されるようになってきました。「保存」に関するお話は、今後こちらの連載の中でご紹介していきます。

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