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お寺スペース・リノベーション #1 お寺 ✕ あかり

かつてはろうそくのあかりに包まれ、祈りを捧げていたお寺。時代は変わり人々が求めるあかりは変化してきた。現代においてお寺にあるべきあかりとは、一体どんな光なのか。照明のスペシャリストが千葉県勝浦市にある妙海寺を訪ね、住職・佐々木教道さんと「お寺とあかり」について話しました。

2018.05.08 TUE 10:00
構成 島田ゆかり / 撮影 山田英博
PROFILE

吉塚 奈月(よしづか なつき)

お寺スペースアドバイザー(照明のスペシャリスト)

パナソニック(株)エコソリューションズ社ライティング事業部勤務。美術・博物館、景観、公共施設などの照明のコンサル、設計を手掛ける。光の専門家であり、文化財の保存と光の関係などにも精通。照明学会「美術館・博物館の次世代照明基準に関する研究調査委員会」委員。

PROFILE

佐々木 教道(ささき きょうどう)

正榮山・妙海寺住職

立正大学を卒業後、千葉県勝浦市にある妙海寺に入寺。地域の人々を招いてのお寺でのさまざまなイベントや、地元の地域活性化活動に尽力。「頼りになる」「心と体と整える」「良いつながりをえる」を心がけ、「より良く生きることを叶える」お寺を目指している。

佐々木

実は今まで、あかりに関しては「明るい」「暗い」「温かみのある色は落ち着く」くらいしか考えたことがなく、どのようなあかりが本堂をはじめとするお寺の空間に必要なのかは、あまり考えたことがありませんでした。

吉塚

あかりはそれだけで空間を変え、演出することができます。お寺には祈りの空間があり、悲しみを癒す場がある一方で、皆さんが集う明るい場面もあります。今回、妙海寺さんの照明設計を担当させていただきましたが、改めてお寺に相応しい明かりについて考えることができました。

佐々木

あかりを変えただけで今までの空間と、まるで全く別の空間が現れました。明かりの効果に驚いています。

お寺のシーンは法事だけではない

吉塚

今回、妙海寺の照明設計をさせていただくにあたり、ご住職と「お寺のシーン」についていろいろご相談しましたね。

佐々木

お寺というと法事、というイメージがあるかもしれませんが、それだけではありません。結婚式も行うし、子どもたちが集うシーンもあります。妙海寺では、地域の方々が集まってランチをすることもあります。そして、静かに瞑想をする時間も。これらのシーンは、客殿と本堂を使い分け、あとは照明を明るくする、少し暗くするといった方法で、使い分けていました。

吉塚

悲しみのシーンに相応しいあかり、気持ちが高揚する場に似合うあかりなど、照明設計は、これからのお寺にどんなシーンが必要かを想定して、あかりを作り上げていきます。明るいか暗いかだけではなく、あかりの色も人の心に作用します。お寺の特徴である、「自分に向き合うシーン」「悲しみを癒すシーン」はとくに、あかりの効用が大きいんです。温かみのある光に包まれると、人は心が落ち着きます。お寺にあるいくつものシーンを演出できるように、最新のLED技術を導入しました。

佐々木

同じ空間でも、あかりが変わると心が感じる印象が随分と変わりますね。

人の心とあかりの関係

吉塚

先ほど、「温かみのある色は落ち着く」とおっしゃっていましたが、なぜだかご存知ですか?

佐々木

ろうそくの火に近いからですか?

吉塚

そうなんです。光の色にはやや青味がかったものや黄味がかったものがありますが、これを光源の光色といい、白色光源の光色を客観的な尺度で表したものを「色温度」と言います。一番低い色温度がオレンジ、そこから黄色、白と変化し、最も高い色温度が青っぽい白になっています。この色温度は、人体の覚醒レベルと関係しており、低色温度だと覚醒度が低くなり眠気が増したりリラックスする効果が見られます。ろうそくのあかりは色温度が低い為、落ち着いた雰囲気を作りくつろげる効果があるんです。

弊社では、感性工学の視点からあかりの研究をしていますが、「心理解析」と「生理解析」をかけあわて、あかりのあるシーンでの違いを分析しています。心理解析はアンケートベースの主観的な解析で、生理解析は脳波を測定します。これにより、生理解析を心理解析により裏付け、通常の電球色よりさらくつろいだ気分になれる「くつろぎのあかり」の開発など、シーンに合った快適なあかりを日々研究しています。

佐々木

なるほど、そのような裏付けがあるのですね。

吉塚

はい。逆に色温度が高いあかりは、覚醒感を促し緊張感・集中力が高まるので、仕事や勉強、運動に向いているあかりと言えます。また、あかりはサーカディアンリズム(人間が持つ24時間周期の生体リズム)を整える効果もあるんです。人間の体内時計(生体リズム)は、睡眠‐覚醒・ホルモン分泌・体温変化などの時間的なコントロールを行い、生活のサイクルの基礎となりますが、物理的な刺激では光の影響が最大である事がわかっています。

吉塚

病院を例に見てみると、単調な入院生活で弱りがちな生体リズム(サーカディアンリズム)を、光による昼夜変化を体感する事で、入院生活で乱れがちな生活サイクルの安定化をサポートする事が可能です。また、病院では多くの場所で診療・看護を効率的かつ正確に行う為、高照度かつ比較的高めの色温度で構成されていますが、入院期間中は患者の心理的ストレスを少しでも和らげる為、間接照明のソフトな光にしたり手術後の覚醒を促す目的がある場所は色温度を上げる例もあるんですよ。

佐々木

病院の例は分かりやすいですね。お寺は心を調える場でもありますから、癒し、喜び、気づき、集中など、あかりによって心理的・身体的影響が変わるならば、活用したいですね。

吉塚

色温度はケルビン(K)という単位で表され人間に心理的効果をもたらします。例えば、光色と温涼感の関係は、JIS(日本工業規格)では、「相関色温度が5300K以上の光源では涼しいと感じが得られ、逆に3300K以下の光源では、暖かい感じが得られる」としています。温かみのあるろうそくの炎は1800Kで、色温度がかなり低いのがわかりますが、高い色温度である青白い光は、お寺空間ではやや寒々しい雰囲気になり心を落ちつける場にはあまり向いているとは言えません。

佐々木

つい最近まで、ご本尊を照らしているあかりですら白色の蛍光灯でした。とりあえず電球色の蛍光灯には変えたのですが。それでも、あかりの選択肢としては、全ての電気をつけて明るくするか、消しておくしかありませんでした。あとは外光(自然光)のあかりです。

吉塚

オランダの物理学者、クルイトフ(Kruithof)が1941年に発表したもので、色温度×照度による心理的効果に示した「クルイトフのカーブ」という有名な研究があります。

吉塚

それによると、電球色など暖かみのある光は、比較的低い照度の方が快適だと感じるそうです。ただし暗すぎる空間は不安を煽ります。

佐々木

その通り、お寺に慣れていない人は、暗すぎるのは不安に感じると思います。うす暗いお寺にはあまり近づきたくないでしょう。でも今までは明る過ぎました。大切な家族とのお別れであるご葬儀や法事のあかりには温かみが必要です。温かみがありながら、明るすぎないあかり。その境目の判断は難しいですね。電気がない時代はろうそくだけでよかったはずなのに。

吉塚

昔と現代では、周囲の明るさが全然違っています。都市部と田舎でも異なります。確かにお寺にはろうそくの明かりが似合いますが、現代社会においてはろうそくだけでは暗すぎる。周囲の環境が明るいからです。そこで活きてくるのが照明設計です。明るい外の環境からお寺の中へ進むにつれ人の心が落ちけるよう照度を段階的に下げてゆき、心を開きたくなるような空間にするには、あかりの設計がとても大切なんです。

祈りの空間と光

吉塚

私は美術館や博物館のプロジェクトに携わっていますが、「展示物がよく見える」ということが目的の空間は、お寺とはまた、あかりの意味が異なると思っています。絵画でも彫刻でも仏像でも「鑑賞する・保存する」ことを重視して、照明を当てるからです。でもお寺に必要な光は、ただよく見えるということではなく、時にご本尊に、時にはご住職に、時に故人の遺影や棺に自然に心が向かうように照明設計をする必要があります。光には気持ちを促す効果があるのです。

佐々木

ろうそく1本でも、護摩法要の火の光でも。その光には意識が集中し、心が向き合う効果があると思います。しかし、ろうそくのあかりだけではお経が読めませんし、あるいはご葬儀の時に故人の遺影が見えないのでは困ります。人生の最後には、光をあててあげたい。

吉塚

その通りですね。見えるべきところに光をあてるのも照明設計のひとつです。あかりはシーンを変えることもできますし、視線を誘導することもできます。こちらの御宝前も、均一な光で全体に明るい照明計画ではなく、光のメリハリや照度差・奥行き感を作り、気持ちがどんどん奥のご本尊に向かうように設計させていただきました。

吉塚

奥を明るくして、中央にスポットライトを当てて、段階的な光を作っています。3段階で目が奥にいくようになっているんです。照明設計をする時は、どこを見てもらいたいかを考えます。みなさん、ご本尊を見たいと思いますよね。でも近づくことはできない。ですから、できるだけ遠くからでもお顔を眺められるようにしているんです。

Before(照明工事前。主に蛍光灯による照明。)
After(照明工事後。設計されたLEDによる照明。)
佐々木

ご本尊に意識を向ける、故人に意識を向ける、ひとつひとつの存在を知らせることが光の効果なんですね。ひとつひとつにスポットライトを当てるというのは、法事や葬儀の意味から考えても同じです。我々は、普段、様々なことを“あたりまえ”として生きてしまっていますが、実はすでに様々な恵みをもらって生きています。何気ない日常に、スポットライトを当て“有り難い”という気持ちを育むという意味では、仏教の姿勢と照明設計の姿勢に近いものを感じます。

吉塚

それは恐れ多いですが、照明設計されていない空間は、全体に光がまわり、メリハリのない空間に見えてしまいます。何かに心を向かわせるには、光の効果が活用できるんです。仏様に意識を向け、心静かに祈る空間づくりは、照明設計が非常に大切だと知っていただけると嬉しいです。

温かい光を演出するLED。猛スピードで進化中。

佐々木

今回、御宝前の明かりをLEDに変えていただいて、LEDの印象が随分と変わりました。もっと冷たい色の印象だったのですが、何が変わったのでしょうか。

吉塚

LEDが登場した当初は、とにかく明るく省エネが目的で、演色性*も低めの緑がかった色みを放つLED光源が使われていました。
*演色性とは、太陽光のもとでの見え方(Ra100)に対し、どれくらい色が再現出来ているかを定量的に示し指標。

これは人間の目が、緑の波長をいちばん明るいと感じる為(最大視感度)、明るさ確保を目的に波長設計をしたからです。演色性が低めだと空間も暗く感じ冷たく感じていたのはそのせいです。LEDとはLight Emitting Diode(発光ダイオード)の略で、電流を流すことで光を発生する半導体素子です。新しく発明された光だと思うかもしれませんが、実は赤色LEDは1962年に登場しています。その後、黄色、橙色が登場し、1993年に青、1995年に緑、そして1996年に白色LED(青色LED+黄色蛍光体)が登場しました。白色LEDが登場したことにより、一般照明用としても応用分野が広がり拡大することになったのです。その後進化も進み、現在では、省エネ性と高い演色を両立した高演色LED(青色LED+緑色+赤色蛍光体)で、温かみのある色も自在に作りだせるようになったのです。

下の写真はろうそくと同じ色温度のLED(左)と、従来電球色のLED(右)。ここまで温かみのある光を作れるようになりました。

佐々木

今までは瞑想会などの時は電球色だけをつけてあとはあかりを消していました。薄暗くても落ち着いた空間にしたかったのです。でも今回、LEDを導入したら調光であかりを落とせるようになりました。

吉塚

白熱電球でも調光はできますが、明るさを抑えていくとどんどん光の色みも赤くなっていくのです。でもLEDは色温度を変えずに明るさだけを落とせます。

佐々木

瞑想の時間は自分の心と向き合って欲しいので全体的にあかりを落としたいし、写経会の時には手元がしっかり見える明るさにしたい。あかりで場面を切り替えられると、お寺という空間の活用の範囲が広がります。それから、今回は金色をきれいに見せる黄色いLEDのスポットを設置していただきましたね。

色の表現が劇的に変わる光のカラーオーダーメイド

吉塚

今回、「カラーオーダーメイドシステム」を採用しました。これは設置する場所に合わせて光の色みをカスタマイズ出来るものです。これまでの光は、色温度しか選べませんでしたが、同じ色温度でも、色偏差(Duv/下図の縦軸)の違いで光色のイメージは異なります。光源の色には色温度(K)と色偏差(DUV)という指標があります。色温度は黄から青、色偏差は緑からピンクの方向を表しています。同じ色温度なのに見え方に違いがある、その理由は色偏差が異なるからです。

今まで光は横軸(色温度)しか選べなかったのが、縦軸(Duv)も掛け合わせることができるようになり、より空間にあった光色を選べるようになりました。

吉塚

図のように、縦軸に含まれるDuv(ピンク⇔緑)も選べる事により、色表現の選択肢が格段に増えたのです。

金色というのはお寺ならではの色ですが、金ならではの輝き感や、金の色みを光でいかに美しく見せるかが重要で、また金色は見る角度により見え方も変わるので難しい色です。

妙海寺の御宝前はどの色温度×Duvの組み合わせがベストか、いくつものパターンをあててみて調整しました。ピンク味の光だとメリハリは出るが銅色に近くなるなど、色を探りながら金の装飾をもっとも「美しい金色」に見せる光に調整してあります。

その空間ごと、光をあてる対象物ごとに最適な光を作れるのがカラーオーダーメイドシステムです。正面奥のご本尊の上部にも4本、カラーオーダーメイドシステムのスポットが入っています。金色の壁を活かすためです。

下図は、色温度とDuvの掛け合わせで、同じ光でもこれだけ色が異なるという例になります。

佐々木

お寺にある金にはいくつかの意味があります。ひとつは保存のためのもの。保護のために金を塗っているものあります。そして一切の煩悩やけがれを離れた浄土の世界を表す中で、教えを説くお釈迦様のお姿が眩いばかりに光り輝いて見える世界を具現化したものです。金色にすることによって浄土の再現をするという世界観を現わしています。この御宝前に対峙したとき、光輝くような金色を目にするという体験は、お寺で体験できるひとつの価値になると思います。

吉塚

そうですね。もう一つ、保護という観点からもLEDは進化しています。重要文化財など、劣化を防ぐためには暗闇で光にあてずに保管するのがいちばんなのですが、祈りの空間で出しておかなければならない場合、光のダメージを最小限に抑えることが必要です。LEDは紫外線・赤外線をほとんど含んでおらず対象物へのダメージを最小限に抑えた光源。その点からも、最新のLEDはお寺に合っている光だと思います。

生まれ変わった空間

佐々木

今回、いちばん変化を感じたのはこの天蓋です。今まではここに光をあてるとは考えていませんでした。カラーオーダーメイドのスポットが金色の装飾を輝かせ、その光が反射して天蓋を明るくしています。上の空間を広がりとして感じるようになりました。この天蓋はお釈迦様がお説法を始めた時に、空から花が降ってきたシーンを表しているのですが、それを感じることのできる空間に、荘厳な雰囲気に変わりました。この変化には、感動しましたね。

吉塚

お寺という場所は、本堂という空間の中に自分の身を置くという特別な体験をする場所です。空間すべてが作品のようなもの。曼荼羅を表す本堂全体を感じるのがお寺という場なのでしょうね。

佐々木

自分も本堂の中では、仏様と融合していると感じます。自分も仏の一部として成り立って、はじめて本堂という世界観が生まれる。自分も光に包まれて、曼荼羅の中に入っているという感覚です。

スポットライト型のプロジェクター、「スペースプレイヤー」の価値

吉塚

妙海寺はスペースプレイヤーも設置されていますね。こちらはスポットライト型のプロジェクターで、空間の明るさをを落としても、光を使って情報を発信できるものですが、どんなことに活用されていますか?

佐々木

照明設計をしたことで、空間をただ暗くするだけではなく「演出としての暗さ」を作れるようになったので、ご葬儀を行う際に、故人のDVDを見ていただいたり、お経を壁に映し出して皆さんで読むということも考えています。テレビモニターの存在感は、お寺の空間にやはり異質感があります。スペースプレイヤーはスポットライトのようにスクリーンに照射するだけなので、空間に馴染みますから、本堂の中に自然にコンテンツを持ち込めるというメリットがあると思います。

吉塚

仏教の教義を映像とともに見ていただくという活用方法もありますね。

佐々木

はい。新しいお寺体験になりますね。お寺で良質な映画を見て語り合うという「寺シネマ」にも活用できます。現在も、仏様の教えがわかる短編ムービーなどを上映したりしています。こちらの写真は、ひな祭りのときのものですが、壁の上部に花を映し出す演出をしました。

佐々木

また、床にも映し出すことができるので、結婚式に映像の花を演出したり、子どもたちに施餓鬼の説明をしたり、さまざまな可能性があります。

吉塚

光に情報を乗せられるのがスペースプレイヤーの特徴なので、さまざまなコンテンツを自由に映し出すことができます。ぜひお寺のコンテンツを新しい形で発信してください。本日は興味深いお話、ありがとうございました。お寺という空間に、光ができることはまだたくさんありそうですね。

佐々木

こちらこそありがとうございました。お寺に於ける照明設計の価値がよくわかりました。新しい空間になった妙海寺に。ぜひたくさんの方々にお越しいただければと思います。

※妙海寺のLED導入ドキュメンタリーは、近日中に公開します。

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