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お寺スペース・リノベーション #7 光が人を導く~光琳寺・紅葉のライトアップ事例~

お寺が「あかり」で変わる、というメッセージを、この連載で数回に渡りお伝えしています。
今回新たに取りあげるのは、宇都宮・清映山松寿院光琳寺の参道に植えられたもみじのライトアップ事例です。
ちなみにこのもみじの植樹は、近年注目を集めている「クラウドファンディング」で実現したものなのだそう。
光琳寺・副住職の井上広法さんと、お寺スペースアドバイザー(照明のスペシャリスト)吉塚 奈月さんが二人三脚で作り上げるこのプロジェクトには、「人が集まるお寺」を考えるうえで、大切なエッセンスが散りばめられています。
ぜひご自坊で取り入れたい「あかり」を思い浮かべながら、ご覧ください。

2018.12.25 TUE 10:33
構成 増山かおり/撮影 森口鉄郎

今回ご紹介する清映山松寿院光琳寺の歴史は、遠く室町時代・応永32(1425)年にさかのぼります。
約600年の歴史を持つこのお寺では、副住職の井上広法さんが中心となり、毎月1日に「ラヂヲ体操&朝参り」を開催するなど、地域に開かれたお寺づくりがなされています。

井上さんが「街では、別名“ジャングル”と呼ばれています」と話す通り、宇都宮の街中にありながら、緑豊かなお寺です。境内には四季おりおりの花が咲き誇り、時にはキジやキツツキなどの生き物も、羽を休めにやってくるといいます。このお寺の門前、東側に向かって東西に伸びる「もみじ通り」が、今回の主役です。

「もみじ通り」の名を持ちながら、実はこの通りには、先日までもみじが1本もありませんでした。かつてこの地域にあったお稲荷さんとともに、地域の人々に愛されていたというもみじ。「戦前まではあった」とも、「もっと前になくなっていた」とも言われ、街のお年寄りは、今でもその姿を覚えているのだそう。その姿を消した今も、街のシンボルとして記憶に刻まれています。
もみじが消えてしまったあとも、他の地域からやってきた若い世代の人々の力によって古い建物がリノベーションされ、おしゃれなカフェやドーナツ店、子供服のセレクトショップなどが集まり、にぎわいを見せています。

形を変えながら、今も愛されるこの通りに、かつてのシンボルをよみがえらせたい。

そんな思いを受けて立ち上がったのが、もみじ通りと共に歴史を育んできた光琳寺でした。
地域の誇りとなるようなもみじを、この街に取り戻したいという思いから、
檀家をはじめとする近所の方々と共にもみじの植樹計画を立ち上げます。

その資金を集める方法として井上さんたちが選んだのが、クラウドファンディングという方法でした。

投資のリターンにも、ふんだんにもみじを取り入れました。
目玉となったのは、今回植樹するもみじを収穫して、宇都宮名物である紅茶にその葉を添えたオリジナルもみじ紅茶です。さらに、もみじモチーフを取り入れたオリジナルの御朱印帳も企画されました。
こうした魅力的な取り組みもあって、数時間という瞬く間に目標額に到達し、約1ヶ月で目標額の2倍を達成。

そして今年の4月に、11本のもみじが植えられました!
当初の目標額よりも多くのご支援があったため、もみじの下には苔も植えられ、より雰囲気のある参道に生まれ変わりました。

そして、初めて迎える秋。11月下旬、もみじはしっかりと色づき始めていました。

地域の方々の思いが詰まったこのもみじを、より魅力的に見せるために行われたのが、今回のライティングです。
パナソニック社とタッグを組んで、光琳寺のライトアップに留まらず、お寺でのライティングの可能性を掘り下げて考えるプロジェクトでもあります。通常の設置時よりも大規模な実験を行い、お寺でのライトアップを総合的に考えることとなりました。

ライトアップの効果は、単に明るくして目立たせるだけではありません。今回のように、お寺で樹木のライトアップを行う際特に重要になるのが「光源の光色」です。

■ 照明のポイント1:光源の光色

空間の印象や樹木の色の見え方には、“光源の色”である「光色」と、光が持つ波長ごとの成分「スペクトル」の割合が影響を与えます。みなさんのご自宅のリビングや飲食店などにも、白っぽい照明と黄色っぽい照明がありますよね。このような光色の違いは「色温度」で客観的に表す事ができ、紅葉を際立たせるうえで大きく関係しています。

※ 向かって左が5000K、右が3000K

やや黄色っぽい、3000K(K=ケルビン)という色温度は「電球色」と呼ばれます。「温白色」と呼ばれる色は3500K。やや青みがかった「昼白色」は5000K。色温度が低いほど、赤味がかった光色になり、温かみを感じる色になります。
今回はこの3つの色を配置し、どれがベストなのかを考えます。

また、もみじは新緑の季節の青々とした色から、秋の紅葉にかけて色が変わるのも特徴です。つまり、季節の移ろいによってベストな色が変わります。これが仏像などの御宝前のライティングと大きく異なる点です。それだけに、お寺のお考え次第で、仕上がりが大きく変わるといえます。

■ 照明のポイント2:明るさ

そしてもちろん、明るさも重要です。事前に行った200形と100形の比較実験の結果、参道外からも光の効果が伝わり誘導効果を生むこと、そして将来的に木が成長することを見越して、高さが出ても十分に光が当たるよう、より強い明るさの200形のLED投光器が使われました。逆に光の弱い100形のものを使えば、投光器自体が小さくなり、照明器具が目立たずナチュラルな風景を作り出すことができます。

■ 照明のポイント3:光の当て方

「お寺スペース・リノベーション #3 仏像×あかり」では、仏像の場合は、優しさや威厳など真逆の印象を生み出すことに触れていますが、樹木のライトアップについても同様に、当て方で印象が異なります。

上から当てる場合、枝のシルエットが際立ち、月明かりで照らしたような陰を楽しむことができます。反対に足元から上に向かうように光を当て、人間の目線前後の高さに持ってくると、幹や葉の美しさをしっかりと味わうことができます。今回は参道両端の紅葉がアーチを作っていたので、やや内側にも光が回るように照らし、暗闇に紅葉の天井が美しく浮かび上がるような印象を生み出しています。

■ 安全面も忘れずに!

また、屋外の照明においては「安全」も忘れてはならないポイントです。漏電による事故を防ぐため、防水対策にも配慮しながら、設置を行います。
また、光源が直接目に入らないような位置取りや、樹木の手入れの際に誤ってコードをカットするおそれのない配置も重要です。

こうした、お堂の中のあかりとは違った観点についても配慮しながら、設置作業が進められていきます。色や角度を何度も調整し、防水など安全面にも配慮しながら、仮設置が進められます。

昼間から準備が進められ、辺りがすっかり暗くなる頃、設置が完了。
こちらの2つの写真をご覧ください。

(before・昼)

(before・夜)

(after)

「いつも見ている景色だからこそ、こうして光が当たることで、見たことのない表情が生まれるのに驚きました! 学生時代京都に住んでいたので、ライトアップで有名なお寺を観に行って憧れていたんですが、こんなことが自分のお寺でもできるなんて」と、しばし見とれる井上さん。

参道の左側と右側で色を変えたりと試行錯誤しながら、手前のもみじは赤みを引き立たせる、黄みの強い3000Kに設定。奥は青々した色を強調する5000K、その間は3500Kという配置になっています。手前は紅葉のしっとりとした雰囲気を際立たせ、奥は明るい雰囲気に感じられます。

さらに今回は、同じ色温度の中でも、一般のLEDより色を鮮やかに見せる「彩光色」の明かりも取り入れました。これは、光の成分のうち黄みを抑えることで、緑色や赤色をより鮮やかに見せる特殊な光なのだそう。つまり、新緑の葉も、紅葉したもみじも、両方鮮やかに映し出してくれる光というわけです。「一般色」と呼ばれる通常のLEDと、この「彩光色」のどちらを選ぶかも、樹木のライティングのポイントとなります。

井上さん「しっとりした雰囲気もいいし、元気が出るような明るい色もいいし、迷いますね。ありがたい悩みです」

このもみじを見守ってきた地元の方々も、この晴れ姿を見に訪れました。
「もみじのあるもみじ通りになって、ついにもみじ通りが完成しましたね」
「いろんな種類の光を組み合わせているんですね。まだ紅葉していない青い葉も、とてもきれいです!」
もみじ選びから携わってきたみなさんも、この変化に感激しています。

井上さん「『清映山』の名の通り、今回のプロジェクトはまさに“清く映す”試みになりましたね」
前途をことほぐように、美しい満月が境内を照らす夜でした。

後編では、設置を終えた井上さんが初めて気づいた、お寺の明かりの役割、そして設置に至るまでのやり取りも詳しくお伝えします。


寺院の外構照明につきまして、お寺スペースアドバイザーがご相談にのります。

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