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『訳せない日本語』(大來 尚順/アルファポリス) 普段何気なく使う言葉に浸透する仏教思想を紹介

2018.05.21 MON 17:22
大來 尚順

まるで重力のように、日常的に私たち自身をつらぬく仏教の教え

一般的には多くの方が「仏教」と聞くと、日常生活とは少しかけ離れたものであったり、私たち僧侶が思っている以上に難解で近寄り難いものだと理解しておられる方が多いというのが事実です。

では、この一般の方の見解をどのようにすれば転換していけるでしょうか?それは、まず私たち僧侶自身が、「仏教」がお寺、仏壇、お墓、法要、読経というような「形」「物質的なもの」「伝統」としてではなく、もう一歩踏み込んだ教えや精神として私たちの日常生活と深く結び付いていることを認識し、それを伝えていくということが挙げられると思います。

「仏教」は日本において、とても馴染み深いものです。実際、私たちの日常生活のありとあらゆるところに溶け込んでいます。しかし、溶け込んでいるがために、日常生活の中で明確に「仏教」を認識することができないのではないでしょうか。

仏教の教えは、時代・場所を選ばずに通用する真理です。これは重力に例えられるのではないでしょうか。地球上にいる限り、私たちは例外なく重力を受けていますが、日常生活では気が付かずに過ごしています。これと同様に仏教の説く教えも私たち自身をつらぬく教えなのです。

日常生活の中でも、最も「仏教」との関わりが深いものの一つに、私たちが普段当然のように使っている日本語があります。きっと、日本語の多くは仏教用語に由来しているということはご存知の方も多いと思いますが、仏教用語とは無関係の日本語の根底にも仏教的な思想や精神が流れているということを認識されている方は少ないのではないでしょうか。実際、当然のように使う日本語を今更辞書を使って調べるという機会はあまりないと思います。

どうしても翻訳できない日本語にこそ、素晴らしい精神が宿る

ここでご紹介したいのが、『訳せない日本語』(アルファポリス)という本です。これは、私がアメリカで仏教を学ぶために留学し、帰国してからも日本語を英語に翻訳する仕事をするなかで、元来の日本語の意味を確認し、気が付いたことをまとめた本です。

翻訳をしていて、どうしても訳すことができない日本語がいくつもあったのです。例えば、「おかげさま」という言葉があります。これは、通常は「Because of you」「Due to」「Thanks to」という英語で表現されますが、どうもしっくりきません。そこで、改めて国語辞典で「おかげさま」という言葉の意味を調べてみると、「御蔭様」という漢字が記載されており、「神仏の加護による」という意味であることを知りました。つまり、「目には見えない不可思議なはたらきや力によって」という意味です。物事は、自分の力で成り立っているのではなく、周りの人々をはじめ、無数の方々の心遣い、思いやり、取り計らいによって支えられて成り立っているということです。これは、私たちの傲りをかき消す「諸法無我」(物事はすべて繋がっている)の教えに繋がります。この意味を踏まえた上で英語の表現を見ると、はやり違和感を持たざるをえません。

このように、英語にはできない部分こそが日本の素晴らしい精神であり、それが仏教に精通していると思ったのです。そして、私たちが普段何気なく使う24の言葉に浸透する仏教思想を紹介しているのが『訳せない日本語』です。

この本から、以下に私たちが仏教と身近であるかを門徒さんや檀家さんに優しく説明できるヒントが得られるのではないかと思います。

PROFILE

大來 尚順(おおぎ しょうじゅん)

浄土真宗本願寺派 大見山 超勝寺 副住職/一般社団法人寺子屋ブッダ理事

1982年、山口市生まれ。龍谷大学卒業後に単身渡米。カリフォルニア州バークレーのGraduate Theological Union/Institute of Buddhist Studies(米国仏教大学院)に進学し修士課程を修了。その後、同国ハーバード大学神学部研究員を経て帰国。帰国後は東京と山口県の自坊(超勝寺)を行き来しながら、僧侶として以外にも通訳や仏教関係の書物の翻訳なども 手掛け、執筆・講演などの活動の場を幅広く持つ。国際経験を活かした講座「英語で考えるブッダの教え」や公式ブログ「訳せない日本語 日本人の言葉と心」はユニークな活動として様々なメディアに取り上げられ、幅広い世代に仏教を伝道している。
著書:著書に「超カンタン英語で仏教がよくわかる」(扶桑社)、「端楽」(アルファポリス)、「訳せない日本語」(アルファポリス)がある。

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