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『カンタン英語で浄土真宗入門』(大來 尚順/法蔵館) 「他力=Other Power」英訳すると理解し易い、浄土真宗入門

2018.07.27 FRI 17:07
大來 尚順

今から17年前、京都の龍谷大学に入学し、真宗学を通して学問として仏教の勉強を始めることになりました。しかし、その傍ら、好きだった英語を仏教の勉強に活かせないものかと考え、さまざまな方々に相談したところ、開教使という国外への仏教伝道・布教に携わる僧侶の存在を知りました。

この開教使になるために必要な知識や能力を磨くカリキュラムとして龍谷大学には開教使課程が開講されており、このカリキュラムを履修し始めたことがこの本を書くきっかけとなりました。

カリキュラムの中で実施される英語での諸経典の勉強は、漢文・日本語・英語、時にはサンスクリット語やパーリ語など言語比較をしながら経典をじっくりの読み込んでいくということもあって、日本語で学んだ仏教や真宗学の内容の復習や理解深化にも繋がる素晴らしい時間でした。

そして大学卒業後、開教使になる前に不十分な英語力を補う必要性を感じ、アメリカの大学院へ進学し、そこで初めて日本で学んだ英語の仏教用語を使いながら外国人の同志たちと議論する機会に恵まれました。

そこで改めて感じたのが「英語で考えた方が仏教用語を理解し易い」ということでした。その理由を探ってみると、それは英訳された仏教用語は単に漢字を英訳しているのではなく、その仏教用語の本来の意味を抽出し、それが英訳されているからだということがわかりました。

今から3年前、この発見を新鮮な感覚として活用し、漢字が並び難解に思える仏教用語も英訳されたほうが、その意味するところを理解しやすいという自身の体験に基づいて執筆したのが、今までになかった仏教入門書『英語でブッダ』『超カンタン英語で仏教がよくわかる』(ともに扶桑社)でした。

そして、処女作から3年の歳月経て、その間ずっと切望していた、いやむしろこのために留学したと言っても過言ではない浄土真宗の教えを英語で紹介するという願いが叶い、この『カンタン英語で浄土真宗入門』を出版させていただきました。

これまで曖昧に理解していたため、詳しく説明しろと言われれば口ごもらざるをえなかった真宗用語の解釈を英語でスパッと切っています。例えば、「悪人正機」という言葉。これは浄土真宗の教えの中でも最もユニーク且つ重要な言葉の一つで、「悪人こそ救いの目当て」という意味です。英語だと「The evil person is the primal purpose of Amida’s working.」となり、「悪人は阿弥陀仏の救いの根本的な目的である」となり日本語の意味より鮮明になります。

しかし、この「悪人正機」は、多くの方が「悪いことをした人でも救われる」という意味として誤解されます。そんな誤解を解くために、私は「悪人」という言葉の意味を仏教史学的な背景を根拠に、「心から自身の罪悪性に目覚め、反省し、その中で悲しみや自分への嫌悪感、葛藤などに苦しみながら生活する人」と解釈し、英語で「A person who is truly aware of one's human nature as hopeless person」と訳しています。

このようなスタイルで浄土真宗の基本的な教えを解説しています。「そうだったんだ!!」「ですよね!!」という驚きと頷きが交差するはずです。

最後に、この本の出版は私個人の願いだけではなく、アメリカで出会った一人の師から託された願いでもありました。私の師である本田清浄先生は、50年以上もアメリカで生活し、最後まで現地の人々に浄土真宗の教えを伝道すべく尽力された方でした。その師が生前、私にいつも言われていたことがあります。それは、「私は浄土真宗の教えをどうすればアメリカの人々に伝えることができるのか頭を悩ませ続けてきた。しかし、それは現代の日本人に伝道する上でも大事なことである。」ということでした。私は師から伝道への姿勢と英語圏での伝道ならではの視点や言葉の表現を教わりました。それを今こそ活用すべきだとまとめたのがこの本です。

価値観の多様化が著しい社会には多角的な仏教伝道方法が必要になります。この本はそんな多様化する現代社会に対応した伝道の一つです。

PROFILE

大來 尚順(おおぎ しょうじゅん)

浄土真宗本願寺派 大見山 超勝寺 副住職/一般社団法人寺子屋ブッダ理事

1982年、山口市生まれ。龍谷大学卒業後に単身渡米。カリフォルニア州バークレーのGraduate Theological Union/Institute of Buddhist Studies(米国仏教大学院)に進学し修士課程を修了。その後、同国ハーバード大学神学部研究員を経て帰国。帰国後は東京と山口県の自坊(超勝寺)を行き来しながら、僧侶として以外にも通訳や仏教関係の書物の翻訳なども 手掛け、執筆・講演などの活動の場を幅広く持つ。国際経験を活かした講座「英語で考えるブッダの教え」や公式ブログ「訳せない日本語 日本人の言葉と心」はユニークな活動として様々なメディアに取り上げられ、幅広い世代に仏教を伝道している。
著書:著書に「超カンタン英語で仏教がよくわかる」(扶桑社)、「端楽」(アルファポリス)、「訳せない日本語」(アルファポリス)がある。

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