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お寺のソーシャルプロジェクト研究 持続可能なお寺の姿とは? – お寺のソーシャル・プロジェクト調査報告(コミュニティ編)

2021.01.25 MON 09:09
執筆 遠藤卓也

お寺のソーシャル・プロジェクトとは

これまで寺子屋學では「お寺コミュニティ・リノべーション」と「お寺スペース・リノベーション」をテーマに、年に1回のシンポジウム開催と、寺院の活動に役立つ記事をお届けしてきました。

お寺を取り巻く環境は刻一刻と変化しています。過疎化、少子高齢化、核家族化、非定住化は檀家の減少や墓じまいの増加を招き、新型コロナウイルス感染症拡大による葬儀の小規模化や法事・法要の中止はお寺の経済基盤にも直接的な影響を及ぼしています。

そのような中で、変化の激しい現代においても持続可能なお寺の姿を探るために寺子屋學では「お寺のソーシャル・プロジェクト研究会」を発足し、人の集まるお寺の活動や、その施設・設備に関する課題や有効事例を調査することにしました。

お寺のソーシャル・プロジェクトとは、お寺の宗教行事以外の活動で、「お寺ならでは」を活かした、地域を元気にする活動全般を指した言葉です。

・心身の健康増進を図る活動
・福祉に貢献する活動
・子どもや大人を対象とした文化活動
・災害時貢献のための準備及び活動
・観光に貢献する活動
・新たな産業創出に資する活動 など

上記のような活動を行なっているお寺、またはやってみたいと考えているお寺に聞き取り調査を実施。対象はこれまで寺子屋學のシンポジウムに参加してくださったお寺や、全日本仏教青年会のご協力のもとにご紹介いただいた、関東近県50か寺にご協力いただきました。(コロナウイルスによる自粛期間以降は訪問はせず、電話やインターネット会議による調査としました)

50か寺への調査結果をもとに見えてきた「持続可能なお寺の姿」について「コミュニティ」そして「スペース」の両面から考察したいと思います。

お寺がソーシャル・プロジェクトに取り組む理由

お寺のソーシャルプロジェクトにおいて、活動目的は寺院ごとに様々ですが、印象的だったのは「地域課題や社会課題の解決のため」という活動目的でした。

なぜ、お寺が地域課題や社会課題の解決に取り組むのでしょうか?具体的な事例をみてみましょう。

コミュニティ事例1:山梨県 曹洞宗 耕雲院「地域食堂」

山梨県都留市にある曹洞宗 耕雲院では「地域食堂」という活動をおこなっています。いわゆる「子ども食堂」のような取り組みですが、どなたでも来ていただけるように名称を「地域食堂」にしています。そうしておくことで、本当に困っている方が紛れ込みやすいイメージを出せると考えたそうです。

月1回、18:00-20:00の間、出入りは自由。毎回のべ100名ほどが参加しています。学童保育の延長上にある取り組みとして考えていますが、独居の老年層などもターゲットとしており、地域の人々がごちゃまぜでいられる場所にしたいと願っています。

食材はJAや社会福祉協議体、フードバンクに提供してもらい、地元の調理師など有志スタッフを揃えて衛生面にもしっかりと配慮しています。
地域の人々とお寺の様々な協働を見据えて、よりよい地域づくりを目指す姿が印象的でした。

また、地元の学生たちを運営に巻き込んでいることも大きな特徴です。30名ほどの大学生が、メニューを考えたりチラシを作成するなど、積極的にボランティア参加。「地域食堂」以外にも、「プログラミング体験」や「ママカフェ」等、お寺での様々な催しに学生達が関わっています。

副住職の河口智賢さんの思いとしては、今後「地域食堂」には地域のいろんな職種の方に来てもらって、それぞれの職業にちなんだ学びの場を設けたいとのこと。その企画についても学生に任せており、学生が自分で考えて実行できる場としてお寺を役立ててもらっているような面もあります。

それは「若者が少ない」という地域の課題にも関連しています。学生たちはいるものの、卒業後は大半が都市部に働きに出てしまいます。卒業後も地域に残り続けるという選択肢を選べるように、雇用を生み出したり、学生たちが地域について可能性を感じられる機会を創出したいという、河口さんの思いが汲み取れます。

気持ちが集まりやすいお寺という場

「地域食堂」を実施することは、「目に見えない貧困」や「孤独・孤立」によって生きにくい人々を助けることに繋がります。そして、その活動のもとに社会課題や地域課題に対して何か協力したいという有志の人々が集まります。
活動を通じて今度は「若者が定着しない」といった他の課題への意識も生まれたり、「地域をよくしていきたい・住みやすくしていきたい」という思いのもとにソーシャル・プロジェクトを実践するコミュニティが育まれていきます。

目に見えるプロジェクトとして形になると、この活動においてはJAや社協やフードバンクのように、他の団体や組織からも「支援したい」という気持ちが集まるようになります。

支援の気持ちが集まりやすいのは、お寺のソーシャル・プロジェクトならではの特徴ではないかと推測します。

次の調査事例では、ソーシャル・プロジェクトへの参加者の声も聞くことができました。

コミュニティ事例2:長野県 真言宗 海禅寺「認定NPO法人 新田の風」

長野県上田市の真言宗智山派 海禅寺は、聖天祭という年に一度のお祭りを主催したり(連載「地域とともにいきるお寺のイベント術」参照)、併設するこども園の評判などから、地域でも認知度の高いお寺です。

副住職の飯島俊哲さんは、9年間地道に聖天祭を開催し続けて最近は檀家さんでも信者さんでもない方の中に「海禅寺いいね!」と言ってくれる方が増えてきていると実感しています。そういう方々にも日常的にお寺に来てもらえるような場づくりをしていきたいと考えています。

飯島さんが理事をつとめる認定NPO法人「新田の風」の取り組みは、以前この寺子屋學でも取材しました。(記事「安心して老いを迎えられる地域づくりを目指す認定NPO法人「新田の風」にみる、お寺や僧侶の可能性」参照)
この時にお話しを聞かせていただいた、「新田の風」事務局長の森江宏さんは海禅寺との関係性について以下のように表現されていました。

”上田に引っ越してきて時間ができました。かつての自分にとってお寺は「用がなければ行かない」場所でありましたが、NPOの活動でご縁のできた海禅寺に行ってみると「ホッとする」気持ちがあり、日常の雑事から解放されたような感覚がありました。住職との雑談で元気が出ることもしばしばでした。”

”海禅寺の護摩焚きや季節の行事にも参加するようになり、生活パターンの中にお寺が入ってくるようになりました。それが精神の安定につながっており、こういった経験からお寺のサロン活動は「良い」との実感があります。”

”海禅寺の本堂をお借りして、講演会やワークショップなどをイベント的に行なっています。普段あまりお寺で過ごすことのない人たちがご本尊の前でお経を聴くのではなく、自分自身の「これからのこと」に思い馳せる時間が特別なんです。エンディングノートを記入するワークショップもとても盛り上がります。お寺の雰囲気の中でざっくばらんに本質的なことを話し合えるので、そういった声の中から地域医療の問題が浮かび上がってくることもあります。”

お寺という場の特殊性

森江さんの言葉から、お寺という場の特殊性が見えてきます。

ひとつめは「居場所」としての心地よさです。
「ホッとする気持ち」、「日常の雑事から解放されたような感覚」とあるように、やはり何か安心感や解放感を得られる場所なのでしょう。
お寺を「サードプレイス」として例えることがありますが、社会における肩書が無効化されひとりの人間としてふるまえること等が、居心地の良さにつながるのかもしれません。

もうひとつは「習慣性」が挙げられます。
護摩焚きや季節の行事に参加することで、”生活パターンの中にお寺が入ってくるようになった”というのは、まさしく生活習慣にお寺が加わりやすいことの現れです。そしてそれが義務ではなく自身の意志による参加で、”精神の安定”につながっている点が肝要です。

また、”お寺の雰囲気の中でざっくばらんに本質的なことを話し合える”という点もいいですね。畏まりすぎず、ざっくばらんに本質的なことを話す気持ちになれるのは、御本尊の前だからでしょうか。

「居場所」+「習慣」=「コミュニティ」

以上からもわかるように、「習慣」とセットで安心の「居場所」をつくることで、「コミュニティ」がうまれます。

聞き取り調査の中でも、ラジオ体操や縁日など人々の習慣になりそうな取り組みをやっている方は多かったのですが、それをいかにコミュニティ化するか?という視点をもって動いている方は少なかったように思います。
お寺での活動を習慣化してくれている方に対しては、檀家さんでなかったとしても「あなたのことを認識していますよ」という態度で接することで、「自分の居場所である」と安心して通ってくれるようになります。

人は誰しも居場所や習慣が必要です。お寺のソーシャル・プロジェクトを実施する際に、安心の居場所を設けて習慣性を取り入れるという好循環をつくることで、お寺が誰かにとっての不可欠な場になります。
良きコミュニティが育まれているソーシャル・プロジェクトが地域で注目されると、周囲で支援したいという人も増え、活動をプロボノ的に手伝ってくれる人や、寄付で応援をしてくれる方も集まり始めます。

檀家さんではなくとも、コミュニティの一部としてお寺に関わりつづけてくれる人が地域に多ければ、中には家族に何かあった時にはこのお寺にお世話になろうという方も現れてきます。そして、寄付などで経済的にもお寺を支えたいという方も出てくるはずです。

そこに持続可能なお寺の姿があると、今回の調査で強く実感しました。

次回は(スペース編)です。
お寺コミュニティの活動の場となる「スペース」について考察いたします。

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