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お寺のソーシャルプロジェクト研究 安心して集える場づくりとは? – お寺のソーシャル・プロジェクト調査報告(スペース編)

2021.02.01 MON 13:14
執筆 遠藤卓也

前回の記事(コミュニティ編)では 50か寺への調査結果をもとに見えてきた「持続可能なお寺の姿」について、「コミュニティ」という観点から考察をおこないました。(前回記事「コミュニティ編」はこちらより)

お寺のソーシャルプロジェクトがきっかけとなり、お寺を「居場所」にしたり「習慣」のように通う人があらわれ、そのお寺を取り巻くコミュニティが形成されていきます。謂わば「お寺の関係人口」が増えていくのです。

そういった、檀信徒ではない関係者の顔が増え始めるとやはり、人々が安心して集える居心地の良い場づくりが必要となってきます。

居心地の良いお寺にするための課題

今回の調査ではスペースについて4つの観点からインタビューを行いました。

・防災/防犯
・維持管理/保全
・魅力化
・快適化

するとその課題傾向としては、当初想定していた「古い」「広い」「人が集まる」という、お寺にありがちな要素で整理ができそうです。

まずは、傾向ごとに具体的課題をみていきましょう。

スペースの課題傾向1:古さによるもの

調査させていただいた寺院には築年数100年を越える本堂も見受けられ、古い本堂に関する課題は多岐に渡りました。主には老朽化からの雨漏り修理、壁の塗り直し、シロアリ対策など維持管理のための課題があります。

近年は台風被害も増えているので、屋根の吹き替えやガラス強化や、大地震がきたときのための耐震工事なども話題にあがります。大抵のケースは「やるべきなのはわかっているが、大事業を行なう体力がない」という声も伴います。

温暖化による夏の暑さも問題視されます。冬はストーブなどで耐えられますが、夏の暑さはどうにもならないのです。古い木造の本堂に埋込み型エアコンも付けられず、年ごとに暑くなっていく夏の到来を恐れているお寺は多かったです。

照明については、意図なく設置された蛍光灯だと、本堂や各施設で写経や書道をやる際に不便という声がありました。満遍なく照らせるあかりの設計や、手元を照らせる簡易の照明スタンドなどが求められます。

参考記事:対談「お寺 × あかり」

また、電気設備が古いままの場合に漏電火災を心配する声も聞かれました。電気設備のチェックを必要と考える寺院は少なくありませんでした。
一方、避雷針の重要性についてはあまり認知がなされていませんでした。

参考記事:あなたのお寺も危ない!?お寺の電気火災、原因と対策

【まとめ】
古い建物や設備については、いずれはリニューアルしなければなりませんが、どのタイミングで実施するか見極めに悩んでいる寺院が多かったです。大きな資金も必要となるので、、、と二の足を踏むようです。
しかしこれまでのような伽藍が必要かどうか?という観点もあります。人口が減少していく中で広い本堂は不要というケースも考えられます。
これから自坊をどのような規模で維持していくのか?というビジョンを描いてみることで、適切なサイズが想像できます。サイズダウンという可能性もあるのではないでしょうか。

スペースの課題傾向2:敷地の広さによるもの

境内が広い寺院においては、自然の手入れ・管理がかなりの課題となっています。昔は檀信徒が協力してやっていたものが、現在は高齢化により手伝える人が少なくなり住職一人でなんとかやっているということも多いようです。

山を保有する場合はとにかく樹木が多く、伐採した樹々を処分するにも費用がかかるので、細かく砕いて粉にするための機器を導入したという寺院もありました。

防犯カメラやインターホンのソリューションも求められています。広い敷地を少ない人数で動き回って仕事をしているので、「お客さんが来た時に気づける」という意味でもカメラやインターホンが必要となります。近年のお客様の画像を機器に保存できるタイプや、外出時でもスマートフォンで応対可能なタイプのインターホンは導入したいという声が多く聞かれました。

また墓地が広い場合、どこにどの家のお墓があるか?という情報が覚えきれないという課題も出てきます。住職が経験的に記憶しているだけというケースも少なくないため、寺族や事務員さんでも応対ができるように、墓地の地図づくりと顧客情報の紐付けをITで管理したいというニーズもありました。

【まとめ】
広ければ広いだけメンテナンスや管理にはコストがかかります。今どきは様々な機器やITなどをうまく使いこなすことで、手間暇を減らすことができそうです。しかしそれでもなかなか埋められないのは「人的コスト」になります。「人手が足りない」という声はどこのお寺でも聞かれました。
「お寺のソーシャルプロジェクト」に取り組むことで、お寺に愛着を抱いてくれる関係人口が増えていきます。そういった方々に「みんなのお寺」という意識をもっていただけたら、必要な局面で手を貸してくれることにつながります。

スペースの課題傾向3:人が集まるために

どんな方でも集まれるようにバリアフリーを目指しているお寺は多いです。特に段差を車椅子で昇降できるかという点が大きな課題です。スロープをつけるには広いスペースが必要となりますし、かといってエレベーターをつけるほどの高低差ではないことから、電動昇降機の導入を検討しているという声が少なからずありました。
墓地においては「お墓の前まで車椅子でいけるか?」という観点から整備が必要となります。

他に多かったのが本堂や会館などで「椅子席に変更した/変更予定」という寺院。椅子を購入するだけならすぐにできますが、今度は机との高さのバランスが悪くなってしまいます。机も高さのあるものに変更するには多くの費用がかかってしまうのと、和室とのミスマッチも想像されることから、例えば「脚の長さを伸縮できる机」を探しているという方もいました。

人が集まった際の「もしも」の時を考慮して、AEDの設置や災害時の一時避難所として備蓄や発電機の購入を考えているお寺も多いです。「AED付きの自販機を導入したい」というアイデアは、高齢者の集うお寺としては必要なことであると感じました。

参考記事:備えあれば憂い無し!お寺の防災備蓄

檀信徒や地域住民が利用できる「コミュニティスペース」「コワーキングスペース」を新設したいという声も増えています。
ユニークなアイデアとしては、コロナウイルス感染症対策のために外でお斎が食べられるようにBBQエリアを作る、またはキッチンカーをお寺が所有し近隣の飲食店にテイクアウトの食品を販売してもらうというものがありました。

以上のように、お寺のソーシャルプロジェクトに取り組んでいる、または取り組もうと考えている寺院には、人々が居心地良く過ごせるスペースが必要と考えている方が多かったです。客殿や会館など既存のスペースのリフォーム/リノベーションを検討していたり、建物を新設したいというアイデアを話してくださる方もありました。

例えば、栃木県宇都宮市・光琳寺では2019年にお寺の会館として「aret(アレット)」という建物を新築しました。

スペース事例1:栃木県 浄土宗 光琳寺「お寺のコワーキングスペース aret」

光琳寺の山門から徒歩1分の場所にある「はなれ」のような建物。一階はドロップイン(一時利用)として勉強・仕事に利用できるコワーキングスペースとなっていて、イベントなどにも使える多目的空間になっています。二階は月極契約でデスクを専有できるので、地元の個人事業主やNPO法人が入っています。

コピー機や仮眠できる和室やサウナルームを利用できる他、キッチンなども併設しておりコロナ以前は共食の場にもなっていました。

勉強や仕事をしている人たちの中にお坊さんがいて雑談相手となることが休憩のきっかけとなったり、何かのひらめきの手助けになることもありそうです。

地域で活躍している人、何かやりたいことがある人、仲間を探している人などの交流が生まれやすい居場所では、ソーシャルプロジェクトが生まれる可能性も高まります。

スペース事例2:静岡県 日蓮宗 大慶寺「靴を脱がなくていい休憩所 一休茶房」

「aret」は建物を新築した事例ですが、リフォーム事例もありました。静岡県藤枝市にある大慶寺の「一休茶房」です。
元々は倉庫だったという土間スペースを、お寺の改修の際にリフォームしたそうです。ご葬儀やお通夜の時は、受付スペースとなっているというこの場所を「一休茶房」と名付けて開放しています。

御朱印をうけに来られた方が休まれたり。受験生が勉強したり、ちょっとした打ち合わせや、待ち合わせにも使われています。
住職セレクトの興味を引く本が置かれていて、セルフサービスのお茶は地元のお店のティーバッグを揃えています。

継続性を保つために賽銭箱を置いておき、お茶を飲んだ方は任意でお布施します。なんと今のところ、経費面では赤字になっていないとのこと。

住職の大場唯央さんは、お寺にふらっと寄ってくれた方にとって「靴を脱ぐことがハードルになる」と考えたそう。それで敢えて、土間スペースを休憩室にリフォームして「ちょっと寄れる」「少し休める」機能をもたせました。

お寺のバリアフリーを考える

各地のご住職からスペースについて聞いている中で、「土足で休める場所」「土足で入れるトイレ」の必要性を挙げる方は少なくありませんでした。
地方では例えば農作業の途中で護持会費を納めにきた、というような方もいらっしゃいます。「ズボンも靴も汚れているから、渡すだけで!」なんて言ってすぐに去ってしまわれるとか。せっかくお寺まで来ていただいたのにお茶の一杯も出せずに申し訳ない、というのは、お寺あるあるな悩みかもしれません。

土間スペースをリフォームしたという方もあれば、山門にベンチを置いて屋根付きの休憩所にしたというお話しもありました。お寺にある建物や境内の何かを活用して、何らかの「居場所」をつくることができそうです。

また、境内にベンチを置くだけでも「居場所」であるというメッセージをあらわすことになります。
大慶寺住職の大場さん曰く、ベンチだけではなく色んな設備に言えること。「お年寄りから赤ちゃんまで誰でもお寺に来てください」と口で言うは易しですが、それならスロープを設置するとか授乳室を備えるとか、目に見えるもので「来てくださいね」「居ていいですよ」というメッセージを表すことができます。
「バリアフリー」という言葉の深い意味合いに気づかせてもらいました。

【まとめ】
人が集まるために、施設・設備の工夫の可能性は色々と考えられます。「鶏が先か、卵が先か」のような話になってしまいますが、いくら施設・設備が充実していても目的がないと人は集まってきません。お寺の関係人口を増やしていくためには、人の集まりやすいスペースの設計と、人が集まる目的となりそうなソーシャルプロジェクトの両輪で進めていくことが求められそうです。

最後に

今回、関東近県50か寺の住職さんや副住職さんにインタビュー調査をさせていただき、やはり地域・お寺ごとに課題傾向は大きく異なるものであると再認識しました。
人口密度、治安、自然災害の頻度、建物の古さ等の様々な要素から必要と思われる修繕や改善をおこない、人が安心して集える場づくりを進めています。
場づくりにおいて、新型コロナウイルスの影響は切り離せないものではありますが、それもひとつの「要素」と捉えることができます。
変化の激しい時代において、社会環境や人々のライフスタイルの変化に応じてお寺のスペースも柔軟に変化させていくことが大切ですし、前編で考察をした「お寺を大切に思う人々のつながり」の広がりとあわせて進めていくべきことと感じます。
正解はひとつではありません。寺院ごとに適したソリューションがあるはずです。『寺子屋學』では引き続き、コミュニティ/スペースの両面から事例や情報の紹介をおこない、「お寺のソーシャルプロジェクト」をサポートしていきます。

最後に、調査にご協力くださったご寺院の皆さまに感謝を申し上げます。

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