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お寺のソーシャルプロジェクト研究 #3 全国のお寺から朝の健康習慣を提供する「ヘルシーテンプル@オンライン」

お寺に人が集うことができなくなった2020年春。寺子屋學でもその進捗を追いかけてきた「ヘルシーテンプル・コミュニティ」の活動も、やむなく各地の寺院で中止が発表されました。
しかしCovid-19感染拡大の中、運動不足やコミュニケーション不足、また先行きが見えない不安感などから、人々の心身の健康が損なわれていく状況に「今こそヘルシーテンプルが必要な時!」と、数名のお坊さんが立ち上がりました。そして宗派を超えた全国のお寺が連携して、心と体の健康を養うオンライン朝活「ヘルシーテンプル@オンライン」が始まったのです。

インターネット会議ツールの「Zoom」を使い、お坊さんが日替わりで健康体操やマインドフルネスの指導を行なう内容は、自粛生活の中で “家でもできる朝の健康習慣” としてみるみるうちに評判となり、参加者がどんどん増えていきました。当初の定員だった100名はすぐに満席となってしまい、6月中旬時点では平均200名が参加。開始からわずか3ヶ月で、のべ12,000人もの方が参加されています。参加費無料で提供しているものの「何かお礼をしたい」という方の善意のご寄付も集まり始めました。

今回は活動の中心的存在である僧侶・佐々木教道師と、「ヘルシーテンプル」提唱者である一般社団法人寺子屋ブッダ代表 松村和順氏に話をうかがいました。

2020.07.22 WED 08:52
聞き手 遠藤卓也
PROFILE

佐々木 教道(ささき きょうどう)

正榮山・妙海寺住職

立正大学を卒業後、千葉県勝浦市にある妙海寺に入寺。地域の人々を招いてのお寺でのさまざまなイベントや、地元の地域活性化活動に尽力。「頼りになる」「心と体と整える」「良いつながりをえる」を心がけ、「より良く生きることを叶える」お寺を目指している。

PROFILE

松村和順(まつむら かずのり)

(一社)寺子屋ブッダ/プロデューサー・代表理事

1973年、長野県生まれ。寺子屋学(当サイト)プロデューサー。中国留学中に弘法大師空海の青春時代を描いた日中合作映画のアルバイトをしたことをきっかけに、同映画の制作プロダクションに入社。助監督を経てドキュメンタリー映画、TV番組、企業プロモーション映像の演出を手掛ける。2007年に株式会社百人組を設立し、代表取締役社長に就任。 2010年、お寺をもっと身近で楽しくて暖かい場所にしようと寺子屋ブッダの活動を開始。一般社団法人 寺子屋ブッダ 代表。

寺子屋ブッダ http://www.tera-buddha.net/
まちのお寺の学校 http://www.machitera.net/

PROFILE

遠藤卓也(えんどうたくや)

一般社団法人未来の住職塾 理事

1980年東京都生まれ。立教大学卒業後、IT企業で働く傍ら2003年より東京・神谷町 光明寺にて「お寺の音楽会 誰そ彼」を主催。10年以上続く活動において、地域に根ざしたお寺の「場づくり」に大きな可能性を感じ、2012年より未来の住職塾の運営に携わる。「お寺の広報」をテーマとする講演・研修や、お寺のHP・パンフレット制作などを手がける。また、音楽会やマルシェなどお寺での様々な「場づくり」もサポートする。共著書『地域とともに未来をひらく お寺という場のつくりかた』(共著・松本紹圭 / 学芸出版社)

参加者とお坊さんの「やりたいこと」がしっかり噛み合った活動

遠藤

「ヘルシーテンプル@オンライン」はご盛況とのことですが、お坊さんの立場からするとどうですか?今の時点での率直な感想をお聞かせください。

佐々木

毎朝200名以上の人に「心と体を整える生活習慣」を提供しながら、自然と「感謝」や「思いやり」を伝えられることがすごいと思います。妙海寺ではコロナ以前はお寺でヘルシーテンプル講座を開いていましたが、200人はどうやってもお寺におさまらないですからね。通う方も毎朝は大変ですし。それがオンラインになったら、やれるようになっちゃった。怪我の功名じゃないですが、コロナがあったからこその思いがけない展開でしたね。

遠藤

各地のお坊さんが日替わりでインストラクターを担当する仕組みによって、お寺側の負担も少ないですよね。オンラインでも毎朝やるというのはさすがにきついと思うので。

佐々木

リアルにお寺にこられるよりも僕らもすごくやりやすいというのはあります。Zoomを閉じれば日常業務に戻れますからね。大体お寺にお客さんが来られるときは、前後含めて3時間はあけておく必要があるのですが、オンラインの場合は1時間に集中してやれるのでありがたいです。

遠藤

参加する側としても、日替わりで別のお坊さんが出てきてくれるのは贅沢に感じます。在宅ワークの頃に、ヘルシーテンプル@オンラインのおかげで曜日感覚を忘れずに済んだという感想もあったとお聞きしました。

佐々木

多様な宗派のお坊さんが出てくるところも安心感に繋がっていると感じます。

遠藤

確かに、同宗派ばかりだったら◯◯宗に勧誘されるかも?と身構える方もいそうです。

佐々木

また登場するお坊さんのキャラクターも人柄もみんないいんですよね。
僕自身も信頼の置ける方が集まっていて、不慣れなオンライン配信などに関しても情報交換をしながら、知を共有しあっています。このお坊さんの集まりだけでも価値があると思いますが、なおかつ一般の方に仏教のエッセンスを伝えられる場もあるというのはオンラインの可能性を感じますね。

遠藤

参加される方々の反応はいかがですか?

佐々木

感謝していただいている感じがびしびしと伝わってきます。生活習慣を整えることが出来た。心の落ち着きを得ることができた。心が軽くなったなど様々な反響があります。毎朝Zoomを開けばそこにお坊さんが居る安心感というか。こういう不安な時期だからこそ、そういう機会をつくる価値があると思っています。こちらとしても、欲してくださっている方が毎朝来てくれているという実感があり、なんというか歯車が噛み合っているような気がします。

松村

噛み合っているという表現、よくわかります。お坊さんが「こんな活動したい」と思っていることと、市民の方の「こんなお坊さんがいたらいいな」と思うことが噛み合っている活動だと思います。毎朝同じ時間に心と体のための運動や瞑想を行える。そういう一連の行動をお坊さんがサポートするというのは正に生活習慣を提供していることに等しいですよね。参加者としてもお坊さんにこんな素晴らしい朝の時間を提供してもらって、一日をいきいきと生きられる。「こういうお坊さん像を求めていた」という感じがあって、これまでになかった、お寺・お坊さんとの付き合い方を見出し始めているようにも見えます。そんな風に、参加者もお坊さんもお互いに充実しているんですよね。

佐々木

そうそう「欲されている感」があるんです。いつもはあまり欲されていないと感じることもありますからね(笑)「坊さんには興味ない!」みたいに思われているように感じてがっかりしてしまうこともあるんですけど。

遠藤

ヘルシーテンプルの活動ではそう感じることはないですか?

佐々木

はい。自ら欲して朝起きて参加してくださるのですから、みなさん目的を持って積極的ですよね。何か乾いたスポンジのようなものに水を注ぎ込めるみたいな感覚があります。乾いているからこそ、僕らは注力していけるんです。いつもは「水一杯入ってるからいいよ」の雰囲気があるのですが、ヘルシーテンプルでは求められている感じが嬉しい。だからお坊さん側のモチベーションが落ちないんですよね。

遠藤

お坊さんも、参加者も無理してやっているわけじゃないから自然体ですよね。「お坊さんの前だからちゃんとしなきゃ」と気負う感じもなく。お坊さんも、本当に伝えたいことを伝えている。

佐々木

仏教のエッセンスを日常に取り入れる一つの形かもしれませんね。「今日はこんな思いで一日過ごそう」というマインドセットをつくってあげたり、ちょっと体が軽くなって心があたたかくなって日常に入っていけるような、そんな朝のひとときをお寺から提供できるって、これはまさに「オンラインの奇跡」ですよね。

松村

チャットからあがってくる感謝の言葉がまたいいんです。「感想をチャットに書いて下さい」と言うと、200人が一斉に感謝の言葉を投稿してくれるのですが、それをシャワーのようにブワーッと浴びるわけです。阿彌陀佛というかお題目の光というか、なんというかそれこそ無量の光という感じですよ。人ってこんなにもたくさんの感謝を持っているんだとわかると、自分も色んなことに感謝して生きようという気分になるんです。これは実際にお寺にお参りするのと近い空気があると思います。

遠藤

それまでお寺とご縁のなかった方でも、コロナが落ち着いたらお参りしてみようという気持ちになるかもしれませんね。

佐々木

お寺への入り口となる活動として非常にいいと思います。日々様々な効果を感じながら、お寺や仏教が自分にとって学ぶべきものであると感じられて、より深く知ってみたいとなっていくのかなと思います。

共通の言語やものさしをもつ僧侶同士の信頼関係

遠藤

やっていて難しいと感じることはありますか?

佐々木

カメラのレンズにむかって話すのはなかなか慣れませんね。僕ら僧侶は相手の反応を見て話す部分があるじゃないですか。相手が理解しているかいないかをみて話を変えたりしますが、Zoomだと相手のリアクションが見えないという前提があるので、しゃべるリズムが掴みにくいというのはあります。「きれいに喋らなければいけない」という気持ちになっちゃうと、途端に難しくなってしまいます。リアルタイムで難しい質問がくることもありますし、オンラインとはいえ200名以上の方に対峙する緊張感がありますよね。逆にやりがいがあるというのは勿論ですけど。

松村

TVのスタジオ収録に似た恐怖感ですよね。カメラの向こうに大勢の人がいることはわかっているけど、何のリアクションも見えないっていう。

佐々木

リアクションがないのが怖いんです。笑っているのか、睨んでいるのか見えていたほうが不安がない。目の前にいるならば100名や200名くらいはある程度慣れていますが、相手の状況がわからない中に身を置くというのはすごく不安ですね。

松村

でもお坊さんはインストラクターでも役者でもなく「生きる姿勢を示す人」ですから、プロみたいにうまくならなくてもいいと思うんです。参加者も指導の上手さを注視してはいないと思います。感想を参照すると「失敗してもお坊さん同士で助け合っているところがよかった」とか「配信が止まるトラブルがあっても落ち着いて対処していた」とか、そういう面をよく見ているようなんですね。だから卓越したプロフェッショナルにならなくてもいいんです。そういう意味でお坊さんはちょっとずるいと思う部分もありますが(笑)

佐々木

何かあってもニコニコしていれば大丈夫、と思ってやっています(笑)

遠藤

でもそれが参加者にとっては何よりの安心感なんですよね。
ヘルシーテンプル@オンラインには、色々な宗派の色々な地域のお坊さんが参加されています。それぞれ考え方も違うと思うのですが、うまく協力し合うことができている要因はなんでしょうか?

松村

今回、インストラクターになっているお坊さん全員が事前に「ヘルシーテンプルコミュニティ基礎講座」という共通プログラムを学んでいたことは成功の要因ですね。マインドフルネスへの理解が一定程度あって、前野隆司先生の幸福学も知っているので、自分の視点でプログラムをアレンジしても芯がぶれないですよね。今回のオンライン化は緊急措置でしたが「手の空いている人はお願いします」と頼むことができたのは、基本的な考え方を「ヘルシーテンプルコミュニティ基礎講座」で共有しているからこその信頼感がありました。オフラインでも会っていたので、その信頼関係においてバトンを渡しあって活動を広げることができました。

遠藤

オンラインでしか会っていない人に頼むのは気がひけるということもありますよね。あと宗派が異なる僧侶同士でひとつの流れを作るというのは、本来は教義的なハードルがありそうです。仏教が中心にありながらも、マインドフルネスや幸福学といった視点を持っているから、そこをクリアできているのではと推測します。

松村

その通りです。お坊さん同士がそれぞれ違うものを尊重するだけではなく、共有できるものをつくっていくこともこれからの流れになってくだろうと思います。例えば前野隆司先生の「幸福学」というものさしを共通して持っていることで、それぞれのお坊さんの異なる智慧や経験を活かしながら、同じフォームで伝えることも可能になります。

遠藤

お坊さんが日替わりでも、ある程度同じベクトルで話をしてもらえると、参加者も安心ですよね。毎日、異なる宗派の独自世界に連れて行かれてしまうと、それはそれで不安にもなってしまうような(笑)

松村

超宗派の活動はそうなってしまう可能性がありますよね。場合によっては考え方の違いが際立ってしまうかもしれませんが、宗派の視点だけではなく幸福学やマインドフルネスのものさしならば、対立にはならない。第三のものさしがあることが大事なのかもしれないですね。

佐々木

その辺のバランス感覚をもっているお坊さんたちが参画してくれているので、非常に話が明確なんです。私の自坊は千葉なので、これまでは例えば九州のお坊さんと一緒に活動するイメージはありませんでした。でも今回オンラインで福岡や熊本の異なる宗派のお坊さんと活動を共にするようになって「一緒にやっている感」が半端ないんです。「ヘルシーテンプルコミュニティ基礎講座」によって共通言語ができているからだと思います。まるで「どこでもドア」みたいに、すんなりと時間や空間を超えているように感じますね。

松村

共通言語があるというのは協力し合う上でとても大切ですね。

遠藤

ある程度のフィールドが決まっている中で、それぞれのお坊さんが自分の個性を出しているというわけですね。参加者からしても、そのフィールドがあることが安心感につながっていると思うので、これまでヘルシーテンプル構想で積み上げてきたものが花開いたという感じがします。

オンラインの取り組みをオフラインに落とし込む

遠藤

今後の展開はどのように考えていますか?

佐々木

オンラインをきっかけとして、実際に個々のお寺にお参りをする人もでてくるかもしれません。お参り旅行とか、それぞれのお寺でやっているリトリートに参加してくれるようなことも考えられます。オンラインの取り組みと、オフラインの取り組みをどう混ぜていくのか?色々試してみたいですね。
まずは午後の時間帯にスピンオフの企画をして深堀りをしていこうと考えています。例えばお坊さんがパーソナリティのインターネットラジオ番組をやろうという企画 ※1 が、参加されているお坊さんから上がっています。朝の時間帯に読めなかったチャットの内容を読んであれこれ話すのも楽しそうです。それぞれが企画したことをどんどん試してもらって、オンラインの可能性を広げてもらいたいと思っています。

※1 「ヘルシーテンプル@オンラインお坊さん夜ラジオ」として、2020/7/7に第1回が配信されました

松村

今回発見だったのは、75歳以上の方でもオンラインに参加してくださる方がたくさんいるということです。妙海寺のお檀家さんでもいらっしゃいましたよね。

佐々木

はい。80歳のお姉さまがスマホをつかって参加してくれていました。何度もお寺にやり方を尋ねに来られて。そうまでして参加したいと思ってくださるのは嬉しいですね。ご寄付までいただきました。

遠藤

80〜90代の方々が使いこなすまでにサポートするのはなかなか大変かもしれませんが、その年代の方まで参加してくださるようになれば、例えば足が悪くなってなかなかお寺に来られなくなっても、スマホやタブレットでお参りできるようになりますよね。

佐々木

今後は妙海寺の檀家さんにももっと参加してもらえるようにしたいです。特に遠方の檀家さんにお寺の魅力を感じてほしい。外の人がたくさん参加しているのに、檀家さんが参加していないのは勿体ないと思いますので。

松村

「妙海寺でやっているヘルシーテンプルに、ネットからの参加者がのべ1万人を超えました!」と寺報に書けば、すぐに皆さん参加してくれますよ。

佐々木

そうですね。次の号に「参加者の声」をのせて、URLのQRコードもつけようと思って準備中です。

遠藤

これからがますます楽しみですね!貴重な体験談をありがとうございました!

関連リンク
ヘルシーテンプル・コミュニティ
ヘルシーテンプル・コミュニティ運営基金

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