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お寺のソーシャルプロジェクト研究 #2 福井県福井市 浄善寺 (真宗高田派) 非常時の寺子屋活動とオンライン化の可能性

新型コロナウイルスの影響により、お寺では法要や法事など人の集まる機会が延期・縮小を余儀なくされました。寺子屋活動も同様に各地で開催を自粛する状況がありましたが、そのような中でオンラインの集い場を作ろうとする動きも見えてきました。今回は、インターネットの会議サービス「Zoom(ズーム)」を使って、こどもたちがコミュニケーションしたり様々なコンテンツに触れられる活動「sora (ソラ)」を主催する、福井県は一乗谷にある浄善寺の僧侶・朝倉恒憲さんにお話しを聞きました。

2020.06.22 MON 21:36
聞き手 遠藤卓也
PROFILE

朝倉恒憲(あさくらつねのり)

真宗高田派 浄善寺

福井県福井市 真宗高田派 浄善寺 衆徒。2012年に妻の実家の福井市に家族で移住、2014年に僧籍を取得し、外資系製薬会社に勤務しながら、お寺と過疎化地域の未来を探る。

オンラインでも「話せる場」の必要性を感じて

浄善寺のある福井県・一乗谷
遠藤卓也

浄善寺さんは「一乗のまなびや」として、プログラミング教室や工作ワークショップなどの寺子屋活動を行ってきたそうですが、Zoomをつかったオンライン活動を始めた経緯をお聞かせ下さい。

朝倉恒憲

3月2日から新型コロナウイルスの影響で、私の勤めている会社が在宅勤務になりました。福井県の学校も一斉休校に入りました。次男が通う小学校は幼稚園もあわせて30名ちょっとしかいないのですが、そんな小規模な学校でも在校生が卒業式に出席できないということになりまして、なんとかZoomでオンライン中継できないかと動いてみたんです。
そのタイミングで遠藤さんにもご相談しましたね。

遠藤卓也

「卒業式を中継したいからZoomの使い方を教えてほしい」とご連絡いただきました。

朝倉恒憲

卒業式は「卒業生の背中を見る」という意味で、在校生にとっても大事なことなので、なんとかしてあげたいという思いがありました。

遠藤卓也

結局、オンライン中継はできたのですよね。

朝倉恒憲

色々ありましたが、結果的にはZoomで中継できました。在校生も自宅から一緒に校歌を歌って、ニコニコした顔や悲しそうな顔が画面を通して見えました。卒業生も「見てもらえている」という実感があってすごく良かったと、保護者の皆さんにも喜んでもらえました。

遠藤卓也

それは良かったです。そこからZoomの活用が始まったのでしょうか?

朝倉恒憲

卒業式の前からですね。Zoomで一回つないでみたら、こどもたちは自然にアクセスするようになりました。「明日は?」とせがまれて、やめたくてもやめられない状況に(笑) つながったらすぐに全員ミュートかけたいくらい、すごい勢いで一斉に喋り出すんですね。プロ野球チップスのカードで何が出たとか、ゲームの話とか、大人からしたらくだらないことを一生懸命喋っているんですね。

遠藤卓也

それって普段、学校で話している話題ですよね

朝倉恒憲

休校になってしまって授業ができないことは問題ですが、こども同士のコミュニケーションも大事な要素です。「話せる場」がなくなったことで、こどもたちも不安に思っていたはずです。それでオンラインでも「話せる場」の必要性を感じて、私の在宅勤務がおわって18時から30分間くらいZoomを使ってのクイズ大会をするようになりました。毎日10名〜15名くらいは参加していましたから、全校生徒の3分の1〜半分くらいの子がオンラインで集まっていたことになります。3月はこの一乘地区だけでやっていました。

「話せる場」がとにかく嬉しい!

「sora」誕生の経緯

朝倉恒憲

4月になって、東京に住んでいる大学時代の友人とFacebookでやり取りをしていたら、自粛生活でこども達が友だちと遊べずに退屈して困っていると聞きました。それならZoomで、一乗のクイズ大会に参加してみたら?ということで、東京の三兄弟が入ってくるようになったのです。

遠藤卓也

東京と福井県の一乗谷ではだいぶ環境が異なりますよね?

朝倉恒憲

そうですね。うちの次男の学校が全体で30人だと言えば、東京の子は「ひとつの教室より少ない!」と驚くわけです。大人の心配をよそに、こどもたちはすぐに馴染んでくれて、意外と大丈夫なことがわかりました。
それならば他の人にも輪を広げたいという声があがり、「sora」という名称のグループを作りました。発端はお寺のある福井県の一乗地区ですが、「一乗」と名乗ってしまうと外の人が入りにくくなると思い、敢えて地名は入れずに「sora」としました。
「sora」ではクイズ大会、Zoomの画面を使ったゲーム、外国語教室、演奏会など様々なプログラムを毎日行っていました。平均で20名くらいのこどもたちが参加してくれていましたね。

遠藤卓也

私もグループにご招待いただきましたが、「sora」のFacebookグループに入ると、毎日のプログラム情報やZoomのミーティングURLがわかるという仕組みでした。

朝倉恒憲

Zoomの画面上ではその時の参加者はわかりますが、カメラをオフにしていたり本名を表示させていない人もいるので、俯瞰できません。Facebookグループ上でどんな人が参加しているのかわかったほうが、安心してもらえるんですね。

遠藤卓也

つまり、メンバー制にしているということですよね。

朝倉恒憲

それもメリットとデメリットがありました。「sora」の活動が少しメディアに取り上げられたりして、それまで関係性のなかった方から問い合わせがあった際「まずはFacebookグループに参加してください」と伝えると、一歩退かれるようなことがありました。参加したい時だけ参加できるという状態を好む人もいるので、メンバー制が必ずしも良いことではないのだと学びました。
オフラインでのお寺活動も同じですよね。どなたでも参加していただける催しをやったとしても檀家さん以外の人やつながりの無い人は気軽に来られないというのと同様の状況ができちゃったなと思いました。

遠藤卓也

一乗地区のこども達は「sora」にも参加していたのですか?

朝倉恒憲

そこもなかなか混ぜるのが難しかったですね。知らない人とのコミュニケーションに慣れていないのか、私が画面に入っていない時間は参加ハードルがあるようです。一乗地区にはプログラム表を作成して送るなど工夫をしたのですが、結局は18時のクイズの時間だけに参加している子がほとんどでしたね。
基本的にクイズや読み聞かせのような双方向のコミュニケーションを必要とするコンテンツは、事前に繋がりのある人でないと参加が難しいみたいですね。コンサートや科学実験など、見ているだけのコンテンツの時は50名くらいの参加者になることもありました。「コミュニケーションはとりたくないが、オンラインのイベントに参加できると生活のリズムがつくれていい」という方もいらっしゃるので。色んな参加形態があっていいと思います。

多様性に溢れた「sora」でのコミュニケーション

オンライン化のデメリット

遠藤卓也

新型コロナ以前はお寺で寺子屋活動もされていましたが、オンラインでやってみてどうですか?このままオンラインでやり続けてもいいかなと思いますか?

朝倉恒憲

そう思った時もありましたが、やりながらオンラインのデメリットが見えてきました。一番は家庭ごとの環境の違いですね。家にPCがなかったり、スマホやタブレットは親しかもっていないとか。Wi-fi環境が整っておらずキャリアの4G回線で繋いでいたため、Zoomを使うと通信量を使いすぎてしまって参加できなくなったということを後から聞くこともありました。参加したいけど家庭の事情で参加できないという、こども同士では解決できない問題をつくってしまっていたのです。
これがビジネスとしてやっている事業ならばいいですが、お寺の人が中心で行なっている取り組みにおいて、格差を見せてしまうようなことはしてはいけない。格差をどうにかすることを考えたほうがいいと思うようになりました。それが4月末くらいのことです。

遠藤卓也

やはりお寺の活動は、オンラインでは完結しませんね。

朝倉恒憲

一乘地区から参加してくれているこどもたちは、元々うちのお寺でやっているオフラインの寺子屋に来てくれていたメンバーが中心になっています。保護者も含めて「お寺さんのやっていること」とわかっているからこそ、当初の理解も得られましたし続けることができたのだと思います。オフラインの寺子屋活動がベースとしてあったからこそ、オンラインへの展開が理解できたということですね。

遠藤卓也

なるほど、一乘地区では「お寺さんのやっていること」が活かされていたわけですね。

朝倉恒憲

しかし離れている人にとっては、お寺の活動といわれても逆にハードルになってしまう可能性があります。だから「sora」として全国のこどもたちを受け入れるにあたっては、あえてお寺であることは隠していました。「寺子屋」という言葉も使いませんでした。唯一オンラインでの「花まつり」はやりましたが、それ以外は一切お寺要素を出していません。
お寺の活動は良くも悪くもお寺に関心のある人しか参加しないと思います。するとどこまでいってもターゲットが変わらないんですね。敢えてお寺を出さないことでお寺に対して無関心な層も自然に参加してくれて、参加しているうちにお寺や仏教に興味を持つこともあると思います。そういうアプローチからすると、オンラインの可能性を感じます。

遠藤卓也

ローカルコミュニティをオンラインでコミュニケーションできるようにした一乘地区での展開と、ローカルとは切り離された「sora」での展開。どちらも同じことをやっていながら、アプローチが異なってくる点が興味深いですね。

お寺の「スタジオ化」の可能性

浄善寺での寺子屋風景
朝倉恒憲

お寺での活動に関してはオフラインが大事だと思っています。これまでも寺子屋活動をやってきましたが、「一乗のまなびや」にこだわりたいです。オフラインとオンラインを両輪で動かせるといいと思うんですよね。例えば一乗の高齢者で特別な技術を持った方に講師になっていただき、お寺でお話ししている様子をオンラインで全国に配信するとか。逆に、他の地域で講師になってくださる方があれば、一乗のこども達がお寺に集まってオンライン講演を聴くような形もありだと思います。

遠藤卓也

最近、全国のお寺が「スタジオ化」していくのでは?と思っていました。新型コロナの影響で、法事や法要をオンラインで行なえるように機材を揃えたお寺が、Youtubeチャンネルを作って様々なコンテンツを発信していますよね。それをきっかけとしてお寺に来てもらえたらもっといいですよね。

朝倉恒憲

お寺が「スタジオ化」できるならば、全国のお寺スタジオがうまく繋がれるといいですよね。例えばうちのお寺の配信を見ていてくれた東京の子が悩んで「お寺にかけこみたい」となった際、福井まで来てくれたら嬉しいですがなかなか難しいと思います。そこで、私とつながっている東京のお寺なら安心できると、そこのお寺に駆け込んでもらえたらいいなと。

遠藤卓也

とても共感します。

朝倉恒憲

オンライン化で急に発信できるエリアが広くなり過ぎてしまうので、どうやってオフラインの繋がりに落とし込んでいけるかと考えた時に、全国のお寺が繋がっていくことが大事だと思います。例えばうちの真宗高田派の寺院だけでは全国をカバーしきれないので、超宗派でひろくお寺さんが繋がれたらいいですよね。オンラインでもオフラインでも仏法を広められる機会になると思います。仏教はひとつですから。

遠藤卓也

今こそ超宗派全国規模のお寺プラットフォームを目指したいですね。一気呵成には難しいかもしれませんが、朝倉さんのような志向で活動をされているお坊さんが全国にいますので、徐々に合流していければ夢ではないと実感しています。
今後はどのように活動していかれますか?

朝倉恒憲

6月から学校も再開したので開催ペースを月1〜2回にしました。試行錯誤しながら続けていきますが「一乗のまなびや」として「sora」のほうでも一乗谷の要素を入れた講座をやってみます。

遠藤卓也

全国発信の「sora」に、ローカルの要素を入れていく方向性は良さそうです。

朝倉恒憲

別の地域でも連携できそうなお寺さんを探していてますので、見つかったら一緒に色々と試してみたいです。

遠藤卓也

お寺同士の繋がりについてはご協力できることもありそうなので、いつでもご相談ください。これからの朝倉さんのご活動を楽しみにしています。ありがとうございました。

関連リンク
真宗高田派 浄善寺ホームページ

PROFILE

朝倉恒憲(あさくらつねのり)

真宗高田派 浄善寺

福井県福井市 真宗高田派 浄善寺 衆徒。2012年に妻の実家の福井市に家族で移住、2014年に僧籍を取得し、外資系製薬会社に勤務しながら、お寺と過疎化地域の未来を探る。

PROFILE

遠藤卓也(えんどうたくや)

一般社団法人未来の住職塾 理事

1980年東京都生まれ。立教大学卒業後、IT企業で働く傍ら2003年より東京・神谷町 光明寺にて「お寺の音楽会 誰そ彼」を主催。10年以上続く活動において、地域に根ざしたお寺の「場づくり」に大きな可能性を感じ、2012年より未来の住職塾の運営に携わる。「お寺の広報」をテーマとする講演・研修や、お寺のHP・パンフレット制作などを手がける。また、音楽会やマルシェなどお寺での様々な「場づくり」もサポートする。共著書『地域とともに未来をひらく お寺という場のつくりかた』(共著・松本紹圭 / 学芸出版社)

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