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鼎談・これからのお寺の役割を考える “人づくり”で“まちづくり” 注目のまちづくり事例にお寺のあり方を学ぶ(後編)

これからの時代、お寺の役割はどうなるべきなのか。変化すべきこと、変化すべきでないことは何か。この特集では、今世間の注目を集めるさまざまなプロジェクトを通じて、お寺が取り組むべきことを考察していく。

第1回目は、島根県の「教育魅力化特命官」の岩本悠さんがゲスト。岩本さんは、島根県隠岐郡海士(あま)町にある、廃校寸前だった島根県立隠岐島前(おきどうぜん)高等学校をさまざまな手法で魅力化し、地域全体で“人づくり”することで、全国でも指折りの“まちづくり”事例を作り上げた人物。現在は、その手腕が評価され、島根県から「教育魅力化特命官」として任命されて、地域に“開かれた学校”づくりに邁進している。

仏教界でも言われて久しい、“地域に開かれる”とはどういうことか?“人づくり”による“まちづくり”とは何か? 仏教界と教育界、共通のテーマからこれからの地域に求められるお寺の役割を考える。

2018.05.07 MON 10:00
構成 島田ゆかり

お寺はサードプレイスになれるのか

松村

岩本さんは、サードプレイスの必要性をどう考えますか?

岩本

学校の中の文化が権威的で、「教えてあげます」みたいなところから変わっていく必要性はあるし、それを「もっと開いていきましょう」というのは1つあります。ただそれは時間もかかるし、すぐに完璧にはならない。それに、ファーストプレイスがダメというわけではないと思うんです。でも、人々に「利害関係の無い第三の場=サードプレイス」があることの必要性は、海士町での活動の中でも必要だと感じました。心を開く場になるからです。今までは、お寺がサードプレイスになるという発想がなかったですね。

松村

お寺はサードプレイスになれると、僕らは考えています。社会的地位や名誉、利害関係やしがらみ、そういったものから離れたフラットな状態に戻した人間関係を作っていくことは、今の社会において必要なんだと思います。本音を話したり、夢を語ったり。子どもたちもそうだし、大人もそう。ひょっとしたら、会社という所属がないおじいちゃんやおばあちゃんたちにとっても、家庭とはまた違う場所があるというのは、心の健康に寄与すると思います。実際、長寿に最も影響のある要因は、社会参加だという研究結果があるそうです。

岩本

最初にこの鼎談のお話をいただいたときに、寺子屋というイメージは子どもたちの学ぶ場、というイメージでした。自宅には、落ち着いて考えたり集中して勉強したりできる場がない子どもが多くいます。そこで僕たちは空き家や古民家を改装した場所、公民館などを活用してサードプレイスとして学びの場に使っています。地域の方が何かを教えてくれたり、一緒に勉強したりもします。勝手に「21世紀の寺子屋だ!」と思っていたのですが、よく考えたら本物のお寺こそ、学校以外の学びができる空間ですよね。先ほどもお話に出てきた過去から未来への時間軸の話もそうですし。僕らが非日常を求めて会議室を出ていたわけですが、お寺にそれがあった。でも何となく、お寺をそんなことに使ったら不謹慎だ、という感覚があったのかもしれません。

井上

そう感じられていたのなら、僕らの課題であり、責任です。

松村

僕らはよく、お寺の空気感を「元旦の朝の空気」と説明します。いつもと同じ空気のはずなのに、ちょっとクリアで凛とした感じ。そして、「オレがオレが」という自分本位がなりを潜め、利他的な気持ちになれる。この空気感を活用しない手はありませんよね。

井上

うちのお寺は、毎月1日にラジオ体操をしています。元々は朝参りの伝統があったのですが、年々いらっしゃる方が減ってしまって、ある日、僕が寝坊して本堂に行けなかったことがあったんです。それで住職が「来る方も少なくなったし、もう朝参りはやめよう」と。しかし、本当にやめていいのだろうかと考えました。じゃあラジオ体操はどうだろう。もし仮に誰も来なくても、自分がラジオ体操をすれば、それはそれで気持ちがいいし。まさに、「大切なものを守るための変化」です。2017年の8月1日から始めましたが、1回も休むことなく、今では県外からも車を飛ばして来てくださる方もいて、レギュラーメンバー30人くらいになりました。先日、朝バーベキューをしてみたんです。お肉はナシで、野菜とトウモロコシで。これは、震災時の避難場所としてのシミュレーションでもありましたが、とても好評でしたよ。

岩本

まさに、地域に開かれた場ですね。確かに避難場所という位置づけも、お寺に求めていいんですよね。

子どもは未来につながるし、お寺は過去とつながっている。人の心は社会構造につながる。これらをつなげることは、じつはとても重要なのではないかと、今日のお話を聞いて思いました。

これまで、お寺という場所をサードプレイスとして意識していませんでしたが、今後はたとえば子どもが身近な課題や、地域の課題解決に探究し、挑戦する「課題発見解決型」の学習を、地域の方たちも含めてお寺でやってみたり、思考力・探究力・知性を深める、「問答を取り入れた対話的・探究的な講座」なんかがあってもおもしろいですね。知育(頭・勉強)に加えて、体育・徳育的なもの、例えば地域に教えられる人がいれば少林寺拳法、武道、太鼓なんかも、できたら良いかなと思います。また、自宅に集中できる学習空間・環境がない子どもが非常に多いので、放課後や土日にお寺で勉強というのを、地域の子どもたちの文化にしていくのもいいかと思います。

松村

日常的な学びの場ですね。奇抜なことを年一回やるよりも、地域の日常に役立つ存在であって欲しいと私も思っています。年に一度食べるかどうかの高級食材ではなく、味噌汁ご飯の存在であって欲しい。そして、学び続けることの楽しさを感じる場をお寺に作りたいですね。
ぜひ岩本さんにも、お寺と協働していただけると嬉しいです。本日はありがとうございました。

PROFILE

岩本 悠(いわもと ゆう)

島根県・地域魅力化特命官

1979年、東京生まれ。学生時代、一年間アジア-アフリカ20ヵ国の地域開発の現場を巡る。
帰国後、その体験学習録『流学日記(文芸社/幻冬舎)』を出版。その印税でアフガンに学校を建設。『こうして僕らはアフガニスタンに学校をつくった(河出書房新書)』。大学卒業後、ソニー(株)で人材育成・組織開発・ 社会貢献事業に従事。その傍ら途上国の教育支援活動や、全国の学校で開発教育・キャリア教育に取り組む。2006年 日本海の離島 海士町へ移住し、教育委員会にて “人づくり”からの“まちづくり”を推進。現在は島根県庁にて新設された「地域魅力化特命官」の職に就き、同県の教育の魅力化に取り組んでいる。
2016年日本財団ソーシャルイノベーター最優秀賞

PROFILE

井上広法(いのうえ こうぼう)

宇都宮市光琳寺副住職。(一社)寺子屋ブッダ/プログラムディレクター・理事

1979年、宇都宮市生まれ。光琳寺副住職。佛教大学で浄土学を専攻したのち、東京学芸大学で臨床心理学を専攻。仏教と心理学の立場から現代人がより幸せに生きるヒントを伝える僧侶として活動している。2014年から、マインドフルネスをベースとしたワークショップ「お坊さんのハピネストレーニング」を開始。また、お坊さんバラエティ番組「ぶっちゃけ寺」(テレビ朝日系)の立ち上げに関わり、企画アドバイスを行うと共に、自らも同番組に出演。現在も各メディアで活躍中。お坊さんが答えるQ&Aサービスhasunohaを企画運営。著書に「心理学を学んだお坊さんの幸せに満たされる練習」(永岡書店)がある。

PROFILE

松村和順(まつむら かずのり)

(一社)寺子屋ブッダ/プロデューサー・代表理事

1973年、長野県生まれ。寺子屋学(当サイト)プロデューサー。中国留学中に弘法大師空海の青春時代を描いた日中合作映画のアルバイトをしたことをきっかけに、同映画の制作プロダクションに入社。助監督を経てドキュメンタリー映画、TV番組、企業プロモーション映像の演出を手掛ける。2007年に株式会社百人組を設立し、代表取締役社長に就任。 2010年、お寺をもっと身近で楽しくて暖かい場所にしようと寺子屋ブッダの活動を開始。一般社団法人 寺子屋ブッダ 代表。

寺子屋ブッダ http://www.tera-buddha.net/
まちのお寺の学校 http://www.machitera.net/

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