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地域とともにいきるお寺のイベント術 第3章 【ご縁花咲く聖天祭】 ご縁の現在 ~第7回 聖天祭をレポート~

2018.12.22 SAT 10:41
執筆 飯島俊哲
PROFILE

飯島俊哲(いいじましゅんてつ)

真言宗智山派 海禅寺 副住職/社会福祉法人 大智会 芙蓉保育園 副園長

昭和55年、長野県上田市生まれ。東洋大学印度哲学科卒業後、京都の総本山智積院で修行。大正大学大学院仏教学研究科修士課程修了。宗派を越えて若手僧侶が集い、これから志す活動や仏教の可能性などを話し合い交流する、「ボーズ・ビー・アンビシャス」の企画に関わる。また保育園勤務をしながら保育士資格、モンテッソーリ教師ディプロム(免許)を取得し、今に至る。未来の住職塾2期卒業。安心して老いを迎えられる街づくりを目指す認定NPO法人「新田の風」理事。寺と保育園、そして地域との協働により、誰もが暮らしやすい場を創造することを模索している。「宗派を超えてチベットの平和を祈念し行動する僧侶・在家の会」幹事

祭り事前のあれこれ

聖天祭の開催日は、毎年5月の第3日曜日と決めています。人と人を繋ぐ1日にしたいと思い立ったこの行事。そして例え細々とでも続けて行くことを念頭に置いている上で、毎年あらかじめ日程を決めておくというのは大事なポイントの1つだと思います。
ちなみに、日程の選定にあたっては、既にある寺の行事と、普段勤務する保育園の行事を照らし合わせて空いている時期から選びましたが、たまたま晴天率の高い日であったことは、野外で開催する行事としてありがたいことです。

祭りの事前準備は多岐にわたりますが、特に“環境”作りに注意を払っています。
まずは物的な環境。寺の日常風景に「色」を入れ、祭りという非日常空間を演出しようと各所に装飾を施しています。年によって少しずつ趣向は違いますが、こうしたことに長けた友人知人、そして先輩方のお力を借りて、染色布やチベット仏教で大切にされている五色の旗など、思いを込めて飾り付けています。
また足を運んでくださった方々が迷うことのないように、行事のタイムスケジュールや会場の案内図など、改良を重ねながら、会場のあちこちに設置しています。

そして人的な環境、つまり祭りのスタッフについてです。当初は寺の関係者を中心に組織していた当日のスタッフメンバーも、回を重ねるごとに口コミやSNSを通じて、様々な顔ぶれの方達が少しずつではありますが、協力を申し出てくださるようになりました。
祭りの朝に行うスタッフミーティングでは、改めて祭りの趣旨をお伝えした上で、一人一人、自己紹介を兼ねた意気込みを語っていただいています。1日の始まりに、全員で思いを共有しておくことで、連帯感が芽生えるように感じています。

また行事の告知ですが、第1回目より試行錯誤しながらチラシを作成し、市内の各所に配布をお願いしたり、自治会の回覧板に入れてもらったり、はたまた地元新聞に掲載をしてもらったりはしていますが、最近はSNSを通じての広報効果が大きくなっています。そうした発信の受け手は、スマホ等の機器を使いこなせる方達に限られはしますが、若い世代への告知手段としては、かなり有効です。
告知に関しては、まだまだ改善できる余地がたくさんあると感じていますが、双方向的なやり取りができるSNSは、他の行事でも活用できる可能性がたくさんあります。

祭りの一日 - 午前 -

聖天祭の朝は、スタッフミーティングが終わると、門前市の出店者の皆さんを受け入れることから始まります。
第1回目は、地元でお店をしている方々や、友人知人を通じてあちこちに頼み込んで、なんとか33店舗の出店を確保しました。
しかし7回目になると、56店舗もの出店者の方々が事前に自ら申し込みをしてくださるようになりました。

「人と暮らしとアートが集うマーケット」というコンセプトの門前市は、多種多様な出店と、その出店者の皆さんが、お互いに調和しながら場の雰囲気を作り上げて欲しいと願い、『まんだらまーけっと』と命名しています。

【出店料について】
出店料金ですが、各店舗の総売上の1割を自己申告で納めてもらうことから始めました。これはあちこちのイベントでの出店経験豊富な友人からのアドバイスで、より大勢の出店者を募れるようにと、できるだけ敷居を下げた料金設定を考慮した結果です。
そして大勢の出店者、来場者がある程度見込めるようになった第7回目の段階で、常連出店者の皆さんに相談をし、出店料金を総売上の2割に値上げをしました。これより行事の運営資金に余裕ができ、できることの可能性が広がってきています

さて、祭りが始まる少し前、出店の方々を対象とした「朝の会」を聖天堂前で行っています。1日の始まりに、祭りの趣旨をお話しし、そして皆で手を合わせて祈る一時を過ごします。任意の参加ではありますが、こうした時間を通じて、バラバラに集まった各出店者の方々が、1つの仲間の輪となっていくように感じています。

そしていよいよ午前10時、聖天祭の始まりです。聖天堂での祈願法要から幕が開きます。個人的には最も緊張する時間帯です。花やかな祭りの雰囲気、各催しは、いわば1つの方便であって、一番肝心なのがこの聖天尊を供養することであるからです。伝授で指導を受けた通りの荘厳となるよう、注意を払い、数日前から時間をかけて準備をします。これは多くの方々の真摯な祈りを受け止める、寺側の責任だろうと自覚しています。

聖天法(華水供)を勤めた後は、参拝者に向けて聖天さんのお話をします。全ての来場者がその場にいてくださる訳ではありませんが、目の前にいる方達にはこの時間を通じて、仏教が語りかける心の気づきに恵まれたらと願っています。そして深い祈りをこらすご参拝の皆さんの姿に接し、こちらが多くを教わるような思いになります。

この頃になると境内にはたくさんの方達で賑やかさが増してきます。そうした方々が門前市で買い物を楽しんだ合間に一休みできる場所を、毎年少しずつ増やしています。美味しいものを食べて語り合う時間。久しぶりの再会を喜ぶ姿や、たくさんの笑顔が溢れます。より長く祭りの場に留まって欲しいと準備している、ワークショップやヨガも人気です。

そして昼前に「仏さまツアー」なる時間があります。子どもさんの参加大歓迎のこの企画。海禅寺の境内を巡りながら、仏さまや仏教の話をします。時にユニークな質問も飛び出して、和やかにツアーは進行します。
仏教が説く心のありようを、我がこととして捉えられたなら、仏像や仏具はとてもオモシロイものとして立ち現れてくる。あなたの「ほとけ心」と出会う仏さまツアー、僧侶として普段の精進が試される時間でもあります。

祭りの一日 - 午後 -

「まんだらまーけっと」の美味しい出店で、参拝者のお昼時の空腹が満たされた頃、本堂をステージにして音楽の奉納演奏、音楽ライブの時間が始まります。
第1回目から同志として力を貸してくれるチベット人の友人達が、伝統音楽を奏でます。敬虔な仏教徒でもある彼らの歌、そして語りは、聴く者の心を引きつけます。それは手を合わせて聴き入る人がいる程。

他にも聖天祭のコンセプトを深く理解してくれている縁あるアーティストが、登場します。思うに、思いのこもった音楽は、祈りそのものと言っても良い程、スピリチュアルなメッセージを発しています。そうして心地よい響きの余韻の中、祭りの一日は幕を閉じます。

出会い直し

さて、こうした一連の聖天祭の中で大切にしている点があります。それはこの祭りが単に寺に人が来ればよいというPRイベントにならないよう、参拝された方には祭りの時間と人との交流、そしてその楽しみを通して、たとえ僅かでも「寺と仏教の価値に出会い直して欲しい」という願いを持つこと。この核がないと、こうしたイベントを、寺が寺でする意味はないと考えています。

何事も、最初からの大成功はあり得ませんが、新しい企画を思いついたらその動機が間違っていないかを確認した上で、ともかくやってみる。その結果を見つめた上で、次に進むというプロセスを繰り返しながら、実行委員会をはじめ、チームとして楽しみながら歩みを進めています。

8回目を迎える聖天祭は、2019年5月19日(日)に開催予定。思いを共有し、共にワクワクできるスタッフさん、出店の方々を募集しています。

たかが祭り、されど祭り。まだまだやれることはたくさんありそうです。

海禅寺ホームページ
http://kaizenji.jp

記事ラインナップ

第1章「ご縁のはじまり 〜聖天さんを巡るあれこれ〜」
第2章「ご縁の組み立て方 ~聖天祭、企画の道のり~」
第3章「ご縁の現在 ~第7回 聖天祭をレポート~」(本記事)
第4章「ご縁のこれから ~非日常から日常へ~」

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