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寺子屋學シンポジウム 寺子屋學シンポジウム2018秋 開催レポート (第2部)

「寺子屋学シンポジウム2018秋」
2018年10月15日(月)
東京都港区 パナソニック汐留ビル 5Fホール

2018.11.05 MON 15:06

第2部 特集「地域の健康に貢献する寺」

続いての第2部は、現役の医師の方々からの、健康に関する提案です。

講演① 人生100年時代に必要な医療

元国立がんセンター疫学部長、日本綜合医学会会長 渡邊昌先生のお話です。
渡邊先生は、長年食育推進などに国際的に取り組んで来られた、食と健康に大変造詣の深い方です。

開口一番「今日は無理やり40分いただき、辻説法にやってまいりました」とお話された通り、医学的エビデンスに限らず、長年のご経験から見えてきた健康への考え方、そして先生ご自身もおおいに魅かれているという仏教の考え方へと展開していく、濃密なお話をたっぷりいただきました。

西洋医学、東洋医学に加え、いにしえの日本で見出された栄養学も交えた研究をされている渡邊先生ですが、ご自身の闘病経験も、研究の大きな要素になっています。
50歳頃の先生は、肉を食べれば馬力が出ると考え、がんセンターの前にあったステーキハウスで一週間に8回ステーキを食べていたのだそう。その結果、体重も血糖値もどんどん増え、ついには糖尿病と診断されることに。
その後、食事と運動を改善することで、約1年でさまざまな検査の値がほぼ正常値になるまでに回復されました。「糖尿病歴25年の大ベテラン」とおっしゃる先生自身が、生活習慣が健康を左右することを実感されているのです。

そんななか、先生が注目し、10年以上実践しているのが玄米食。幕末〜明治時代に活躍し、玄米食や食育の祖といわれる石塚左玄のほか、貝原益軒の話なども交えたお話は、健康に役立つ気づきを与えてくれるだけでなく、学ぶ楽しさに満ちていました。玄米にはビタミンC以外のビタミンやミネラルがたっぷり含まれているため、玄米と具入りの味噌汁だけで完全な基本食になるのだそう。玄米食によって食生活全般が変わり、肉をそれほど食べたくなくなるといいます。アルツハイマーの予防についてもかなり解明されてきており、その原因の多くをカバーする要素が玄米食にあるといいます。「未病」の状態を治す「治未病」によって、医療費を減らすことができ、食の改善によって、現在50兆円に達している医療費のうち、10兆円減らせるというお話も。白米に比べて食べにくいという点も、品種改良や調理法でかなり改善されるといい、そのよさはもっと知られていいのではないでしょうか。

「全国に8万近くもあるお寺を利用して健康拠点に。健康なお年寄りがお寺の庭や空き地にボランティアで集まって、近所の人と一緒に有機農業を行いおいしい野菜を作って販売したり、レストランを開いてもいいのでは。そうした取り組みで、安心・安全な地域のバックアップが図れるのではと考えています」

食育関係の団体や食品業界、鍼灸、あんまなどの分野も関わり意見交換しながらお年寄りに対面できれば、健康なお年寄りも増えていくのでは、と渡邊先生は話します。「『ヘルシーテンプル構想』は日本再生のキーになってくれるに違いない。7万のお寺の存在があれば、日本に大震災やカルデラ火山大爆発があっても、そこから日本人は再生するでしょう」というメッセージに、力強い思いを抱きました。

講演② 診療から見えてきたお寺だからこそできること ~「心と体の健康塾」の可能性~

臨済宗建長寺派林香寺の住職を務める僧侶であるとともに、精神科・心療内科医として、日々診療に携わる川野泰周師。今回の講演は、まずマインドフルネス体験からスタートしました。
2分間、会場の椅子に座ったまま、呼吸に意識を向けるワークです。「呼吸を気にすると、とたんに上手くできなくなると感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか」会場に問いかけながら、講演が進んでいきます。

川野師のお話の核となっていたのが、気づく(=智慧)力 と、受け入れる(=慈悲)の力です。仏教から発祥し、宗教色を除いた方便として広まりつつある「マインドフルネス」の話を軸に、道元禅師の言葉「念起即覚」なども取り上げながら、日々診療に携わる中で接した事例や、お寺でできる心と体の健康についてのお話が展開されました。

川野師は、うつでクリニックを訪れる患者さんや、検査をしても異常値が出ないにも関わらず体の不調を抱えている、自律神経失調症の患者さんなどを診察されています。そうした経験を交えながらお話される中で、とても印象的だったのが、再発を繰り返していた女性の患者さんのお話でした。

「その患者さんは、『この部署ではこういう人がいたからうまくいかなかった』など、外側の問題点を見る目は非常に養われていました。ところが、自分の内にある苦しみを持っているのかに目を向けることがないまま、再発を繰り返していたんです。そんなある日、診療の一環で行っている呼吸の時間に、うまく呼吸できませんと言って涙を流されました。日頃の仕事で自分の思い描いていることが実現できず、ただ自分の呼吸を眺めるという簡単な瞑想すらできなかった自分のありようが許せなかったんですね。でもその日をきっかけに、その方のお話の内容は変わっていきました。その間わたしはほとんど治療らしい治療はしていません。薬も出していません。ただ診断書を出して、週1回通っていただいただけで、実際に治療したのは、彼女自身です。これは精神科医でなくてもできることだと思っています。親しい方のちょっとした働きかけで、乗り越えられることもあるんです」

このように、自己肯定感を上げて自分でストレスを乗り越える方法は、主体的に幸せになれたことを実感できる、数少ない精神疾患の治療法だと川野師は話します。
医療行為としての治療だけでなく、自分に対する「気づき」が、心の健康を取り戻させてくれたという事例です。ここには、お寺だからこそできる心と体の健康への、大きなヒントを感じさせられました。
一人の人間存在に戻って、社会的な評価から離れ、自己肯定感を高める。安心して自分と向き合う時間を作り、利害関係のないコミュニティでご縁を育む。 
こうした「お寺だからこそできること」に、一次予防の場となる可能性が潜んでいるという、前向きな提案に満ちたお話でした。

参考記事
連載:サイエンスで紐解く寺子屋活動(川野泰周)

「ココロとカラダの健康塾」の可能性

「お寺だからこそできる、一次予防の場」のひとつの具体例として「ココロとカラダの健康塾」というプログラムが開発されました。

「ココロとカラダの健康塾」では、食事・運動・休息・良き繋がり・他者を認める・自分を認める、という6つのパートで講義を行ないます。まず自分自身を認めてあげることの大切さ、そして初めて他者を受容することができる。そこに豊かなコミュニティが出来上がってくるということを理想としています。

6つの要素が、専門家の手によって展開できる場所を、お寺で提供していくという考えです。実は大切なのはすでにお寺にあるものです。お寺にある習慣や、お寺にあるツール、お寺にあるメソッドなどが、各回の講義の中で活きてくるということです。

※「ココロとカラダの健康塾」について、詳しくは下記のレポート記事をご参照ください。
https://terakoyagaku.net/id1024/

ヘルシーテンプル構想について

川野師からバトンタッチを受ける形で、一般社団法人寺子屋ブッダ 代表の松村和順氏より、「ヘルシーテンプル構想」に関する説明がありました。
「ヘルシーテンプル構想」については、松村氏の言葉を引用いたします。

松村氏「お寺に健康に関する知恵を蓄積し、より良い生活習慣の提供を地域の人たちに行っていくのがヘルシーテンプル構想です。

まず、全国各地のこの構想に賛同頂いたお寺に、心と体の健康に関する基礎的な情報を学んでいただき(1日講義とEラーニングで構成予定)、その上で、お寺ごとにヘルシーテンプル宣言をしていただきます。これは、地域の心と体の健康にお寺が貢献していくことを宣言するもので、地域の医療関係者や様々な健康指導者また行政に対する呼びかけになります。

また、ヘルシーテンプル活動を行うお寺には、学会や研究機関から出される最新のエビデンスの提供や、健康指導者養成機関や健康器具メーカーから具体的な健康増進プログラムの提供、ナレッジの共有など、お寺が地域の健康拠点になるために様々な支援を行います。
2019年に、モデル寺院の活動をスタートし、実施レポートを寺子屋學サイトを通じて行っていく予定です。」

座談会:お寺から提供できる健康を考える

続きまして、「お寺から提供できる健康を考える」をテーマに、下記の4名の僧侶と松村和順氏が対談しました。

・井上広法師(セミナー講師、宇都宮市 浄土宗光琳寺 副住職 )
・倉島隆行師(全日本仏教青年会第21代理事長、津市 曹洞宗 四天王寺住職)
・川野泰周師(精神科・心療内科医、横浜市 臨済宗建長寺派 林香寺住職)
・大來尚順師(翻訳家、山口市 浄土真宗本願寺派 超勝寺 副住職)
・松村和順氏(一般社団法人寺子屋ブッダ代表理事)

事前アンケートにて浮かび上がってきた「ヘルシーテンプル阻害要因として考えられる3つのこと」について、お話しを聞いていきます。

1つ目の阻害要因は「企画力や人脈がない」。それぞれの方がどのようにクリアしているのか、事例を聞きながら考えていきます。

井上師は「ラジオ体操&朝参り」を2年以上続けているそう。そもそもの発想は、地元タウン誌編集長さんらとの飲み会で出たアイデア。地元の様々な人との交流を楽しむ姿勢から、面白い企画が生まれてくるのだと感じさせてくれます。

倉島師は「坐禅体験」や子どもたち向けの「寺子屋」等をなさっているとのこと。また、四天王会館というお寺の建物をリノベーションしてカフェやギャラリーなど、開かれた場を提供しています。企画力、アイデア、人脈など、地域との協働によって生まれてくるということを体現されています。

大來師は「認知症カフェ」や「お寺で話そう」といった場を設けています。これは地域の方々へのアンケートをもとに企画されたこと。地元の病院が1つになってしまい、健康や医療面での不安が多い。そのことが健康に関するお寺の活動が生まれた元となっています。

川野師は「坐禅会」を長く続けていますが、よく聞かれる「なんのために坐禅をするのか?」という問いに真摯に応えようとした結果、単なる坐禅会ではなく、脳科学や心理学の話も含む「マインドフルネス坐禅会」というユニークな形式に至ったそうです。

やはり、どの方も「人と接点をつくること」に長けていらっしゃいます。上意下達になってしまっては、多くの人に広がらない。お寺はつながりの場、と捉えて少し離れたところから場を見守る姿勢が、人をつなぎあわせ、面白いアイデアや企画につながっていくのではないでしょうか。

つづいて2つめの阻害要因は「お寺は意外と忙しい」です。確かに、毎日多忙にしていたら、他人のココロとカラダの健康に寄与できるような時間もとれません。

川野師からは、「切り替えをうまくする」そのために、マインドフルネスをうまく利用なさっているとのことでした。それがマンネリ化せずに、毎回を全身全霊で楽しんで実施できるコツだそうです。

倉島師、井上師、大來師はともに檀信徒や地域の人々の理解を得ることで「協力してもらう」ことが可能になっているとのお話しがありました。

それぞれが様々な方法で「時間問題」をクリアしているようです。

そして3つめは「経済的な持続可能性」について。
お寺とはいえ、全部無料で提供してしまっては、施設の維持費や関わる人々の人件費が賄えません。

川野師としては、無料の会もありながら有料のワークショップもあるなど、お寺に来る方が選択できる幅をもうけていらっしゃるそう。施設の修繕や備品購入などは、有料のワークショップで補っているとのことでした。

大來師からは助成金活用のアイデアが。井上師からは今どきな「クラウドファンディング」活用の可能性が示されました。

また、倉島師からは様々な活動から生まれたご縁から、お寺で結婚式をしていただいたり、墓地を購入されたりと、巡り巡ってお寺にかえってくるケースがあるとのお話し。ご縁がつながれば、お寺にとってはあながち持ち出しばかりではないというご意見です。

最後に松村氏からは、地域資源というのは何もモノだけでなく、人的な資源も考えられるとの指摘に一同が頷きました。健康に寄与するさまざまな人が地域に存在しているように お寺という場所から「よりよく生きる」を発信したいという人はたくさんいるのではないか、その人達をうまくつなげていくことができればヘルシーテンプルの実現も、そう遠くない未来にあるという気がしてきます。

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