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お寺から始める ココロとカラダの健康塾 番外編 レポート:「ココロとカラダの健康塾」がスタート!

人生100年時代といわれる現代。健康上の理由で日常生活が制限される期間は、男性で9.13年、女性では平均12.68年にもなるといわれます。単に長生きをよしとするのではなく、健康な毎日を過ごすことが、今まで以上に関心を持たれている時代だといえるでしょう。
そんな時代だからこそ、とスタートしたのが、「ココロとカラダの健康塾」。「健康に生きる」と聞いて頭に浮かぶ病院やスポーツジムだけでなく、お寺を健康増進の場として、いわば「再発見」する試みです。
体と心の健康は深く関連しあっている、という事実から、「ココロ」のパートは僧侶が、「カラダ」のパートは医師が担当します。参加者は、健康に関心のある一般の方から、心と体に関心を持つ僧侶の方などさまざまです。仏教2500年の歴史の積み重ねであるココロの健康と、医学的エビデンスに基づいた医療情報がともに出会う場所。それが「ココロとカラダの健康塾」です。

2日間にわたり行われたこのプログラム、心と体はそれぞれ別のものではなく、互いに深く関連しあっていることを感じられることが最大の特徴です。よりよく生きるための生活習慣を「食事」「運動」「休息」「自分を認める」「他者を認める」「良き繋がり」の6つに分け、それぞれの専門家からお話いただきました。それぞれのパートが、他のパートとつながっている様を感じながら、レポートをお楽しみいただければ幸いです。

「ココロとカラダの健康塾」
2018年9月8日(土)・9日(日)開催
東京都豊島区 真言宗豊山派金剛院

2018.10.14 SUN 16:48
PROFILE

増山かおり(ますやまかおり)

ライター

1984年青森県生まれ、東京育ち。株式会社髙島屋での勤務を経て、フリーライターに。みうらじゅん氏、さくらももこ氏、杉作J太郎氏、人間椅子(バンド)などの影響で、ゆったり楽しく生きる方法や、仏教について考え始める。著書『東京のちいさなアンティークさんぽ レトロ雑貨と喫茶店』(エクスナレッジ)等。Twitter: https://twitter.com/ishikaki28

<9月8日>

1. 【カラダのパート】食事

まず最初のパートは、もっとも身近な「食事」です。担当は、健康増進クリニックの加藤直哉先生。テーマはずばり「ご飯は最高の健康食」です。
巷には、これだけを食べろ、これを食べるな、という情報があふれていますが、先生はこうした健康食への考え方は、それ自体が新たなストレスになってしまうため避けるというスタンスでお話をスタートされました。楽しく、努力のいらない健康食。それが、ご飯を中心とする和食に詰まっているというお話です。

現代当たり前のように取り入れている栄養学は、明治時代にドイツから取り入れられたもの。日本と緯度が10度ほども違うドイツの食事がベースとなっているため、必ずしも日本人の健康にとって最適な形になっているとはいえないそう。
そこで浮上するのが、和食です。例えば、お米のご飯は脂質が少なく、添加物もなく、体内で合成できないアミノ酸をバランスよく含んでいたりと、あらためて見直したいメリットがいっぱい。味噌汁、卵、梅干し、納豆についても同様に、単に伝統のよさを伝えるのではなく、最新の研究から得られた医学的エビデンスを用いながら、その良さを見直すお話でした。また、「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンなどのホルモンが腸で作られるなど、食事によって作られる腸内の環境が精神面にも大きな影響を与える、というお話も興味深いものでした。

また、肉ではなくお米などの穀物をメインにする食事は、化石燃料や水などの資源を考えたうえでも地球にやさしく、家畜の飼料となっている穀物を分配すれば飢餓問題の解決につながるというトピックも。食事という日々の営みが、体はもちろん脳にも、さらには地球の環境にもつながっていることを実感させられる講座でした。

2.【ココロのパート】自分を認める

続いては、ココロのパート。浄土宗光琳寺副住職、井上広法さんによるお話です。
「自分を認める」というテーマの第一歩として、このパートでは、欧米でも盛んになっているマインドフルネス瞑想を実践。マインドフルネスは、実はiPhoneのアプリ「ヘルスケア」の中にも入っているというお話に興味を魅かれます。「アクティビティ」「栄養」「睡眠」と並んで、4つめの項目として「マインドフルネス」が取りあげられているのです。

 このマインドフルネスを実践するにあたって、普段の私たちの心の仕組みについてのお話からスタートします。外部からの刺激に短絡的に反応することで、感情的な行動をとってしまうことは、誰にでもよくあることです。ところが、その前に一度立ち止まることで、刺激の反応の間に起こる「認知」が変わり、現実の変えられない出来事や状況にとらわれずに過ごすことができます。マインドフルネスによって、感情的な反応をすることなく、反応をコントロールできるようになるというお話でした。

この前置きを経て、マインドフルネスの実践方法のレクチャーに移ります。集中するうちに雑念が湧いてきますが、それをいいとも悪いとも捉えず、単に「気づく」だけでよく、呼吸等体の反応に意識を向けてまた集中の状態に戻っていきます。起きていることをありのままに捉え、感情や思考が湧いてきたら、ジャッジせずに流す。これが、自分の心を整えるための生活習慣になります。

普段、ものの数秒で食べ終えてしまうレーズンを、3分間かけてじっくり味わってみるというワークも行われました。すると、普段感じていなかったレーズンの香ばしい香りや、皮と実の食感の違いまで感じられるように。普段いかに感覚に意識を向けていないか、あらためて気づかされるワークでした。

井上さんから、赤信号の待ち時間にスマホを見るのではなく、マインドフルネスの時間に充ててみたり、電車内でもスマホを開かず、自分の体の揺れを感じてみるのもおすすめですという提案も。こうした、帰り道からすぐ実践できる提案も、「ココロとカラダの健康塾」の大きなメリットです!

<9月9日>

2日目の開催となったこの日、2日続けて参加された方も多くいらっしゃいました。2日間まったく異なる内容ですが、それぞれのパートに深いつながりがあることが、講座の至るところで実感されました。

3. 【カラダのパート】休息

この日のトップバッターを務めたのは、僧侶であり、医師として診療に携わる臨済宗建長寺派林香寺住職の川野泰周さん。ココロとカラダ両方のプロである川野さんがお届けするテーマは「正しい休息と睡眠のとり方」です。

私達が一言で「疲れ」と読んでいるものには、さまざまな種類があるというお話からスタート。体を動かすことによる疲労だけでなく、近年特に大きな問題となっているのが、マルチタスクによる疲れです。現代は一つのことに集中できることは少なく、どうしても頭の中が複数のやることで一杯になりがち。スマホなどによって、常に誰かに呼び止められているような状態も重なり、何もしていないつもりでも、脳のエネルギー消費が大きくなっている状態です。こうして山積した脳と心の疲れから、自分の状態に気づくことができず、うつや自律神経失調症を招く例が増えてしまっているといいます。

こうした状態から脳と心を休ませるのに効果的なのが、初日の講座で井上広法さんも取りあげていた「マインドフルネス」。川野さんの成らす鈴の音に導かれ、マインドフルネスを実践します。この日は、昨日に引き続きお寺や駅の周辺でお祭りが行われており、意識を研ぎ澄ますとそのにぎやかな音に心が奪われてしまいます。でも、その意識をまた優しく元に戻せばOK。あわせて、体を端から順に意識を向けていくマインドフルネス「ボディ・スキャン」にも全員でチャレンジ。雑念が湧いてもジャッジしない、自分をありのままに認める、ということを体感できるワークとなりました。

続いては、医師の立場から毎日の睡眠にフォーカス。睡眠のリズムを生み出すホルモン「メラトニン」は朝日を浴びて14〜16時間後に脳内から分泌されるため、夜になると眠くなると言う基本的メカニズムを学びました。その基礎を踏まえたうえで、ブルーライトを発するスマホも睡眠の妨げになってしまうため、就寝の2時間前には使用をやめ、優しい間接照明を取り入れることなど、よい睡眠のための習慣についてお話が続きます。その中には、豆類や白米などを食べて、「トリプトファン」を積極的に摂取するという項目も。初日の食事のパートで加藤直哉先生が取りあげていた白いご飯は味噌汁、納豆は、よい睡眠にもつながることがわかりました。

4. 【カラダのパート】運動

続いては、相武台脳神経外科 院長の加藤貴弘先生のパートです。「運動」と聞くと、ジョギングやサッカーなどのスポーツが思い浮かびますが、今回のお話は運動を広く捉え、「体の声を聞く」ということがメインテーマとなりました。

まず、医学部では「健康とは何か」という授業がほとんどない! という、一般人にとっては意外にも思えるお話で幕を開けます。参加者との対話形式で、健康とは何かを捉えるところからスタート。「バランス」「安定」「幸せ」「充実」などのフレーズが飛び出す中、最終的に「自然と調和した状態」というフレーズに集約されました。

現代では、体の調子が悪くても会社に行かなければならなかったり、パソコンに向かって不自然に体の動きを停止させなければならなかったりと、体の声を抑える運動をせざるを得ない状況が多くなっています。つまり、体の声を否定する実践をしてしまっている状態です。この状態と逆のことをしてあげる、もしくは不快な状態だという自覚だけでもしてあげることが、より健康に生きるために必要だというお話でした。

不快な状態がいわば当たり前になってしまっている体に、気づきを取り戻してあげるため、先生がおすすめするのが「指もみ健康法」です。指先から指の付け根に向かって、1本ずつ側面をほぐすようにもんでいくという指もみをする、という手段が目的化してしまわないように、痛みを感じる場合はその部位を避け、心地よいと感じる力の強さで行うことが大切だとか。全員で数分感このワークに取り組んだところ、参加者のみなさんの顔がほっと緩んだような表情に。先生やスタッフのみなさんも驚いていました!

自分の体の声に耳を傾けるということは、いろいろなノイズを切り離して、直感にアクセスするということ。ここから、他者とのつながりも生まれてくるというお話は、仏教にも通ずるように思えます。朝起きた瞬間や、ふと立ち止まったとき、スポーツをしているときの体の変化など、折に触れて思い出したいお話が凝縮されていました。

5. 【ココロのパート】他者を認める

浄土真宗本願寺派 超勝寺 副住職であり、翻訳家としても活躍する僧侶の大來尚順さんのお話です。

私たちが普段何気なく使っている日本語を英語に置き換えるというワークを行いました。「いただきます」「すみません」「つまらないものですけど」といった言葉を、参加者のみなさんがそれぞれ翻訳にチャレンジしていきます。「当てたりしないから大丈夫ですよ!」と大來さん。英語の授業のようにお話が進んでいき、久しぶりに学生時代に戻ったようなムードに。

「いただきます」は、ごはんを食べる前に言う言葉ですが、その意味を辿ると、「生き物の命を奪う/頂く」、つまり「I take your life」というのが原点です。感謝の前にあるのは、頂く命に対して頭を下げるという懺悔。衆生への懺悔と感謝の気持ちが、言葉に含まれています。

「いってきます」という言葉にも、無事に帰ってこられることが当たり前ではない世の中で生かされているということ、また、最近使われなくなりつつある「つまらないものですけど」にも、普段あなたから受け取っているものに比べたら、という意味が隠されています。共に生かされている、「共生」という仏教精神に培われた理念が日本語に宿っている、というお話です。何気なく使っている日本語に、いかに仏の優しさが宿っているか。日本語には英語に翻訳できない部分があります。その部分にある奧深い意味に向き合いながら、他者とのつながりの中で生きていることを実感するひとときでした。

最後に・つながりの茶話会

両日とも、最後には参加者全員による「つながりの茶話会」が行われました。よりよく生きるための生活習慣「良き繋がり」は、講師からのレクチャーではなく、1日を終えた参加者が、互いに気づきをシェアすることで実践するというプログラムです。同じ話を聞いても、人それぞれ受け止め方が違うことから、自分一人で健康づくりに取り組むのではなく、人とのつながりの中で実践する事の大切さを実感します。

また、講師のみなさんのセッションパートも見どころです。医師と僧侶という異なる立場の方々にも関わらず、お話の至るところに共通する要素が散りばめられていました。初日の「食事」パートを担当された加藤先生からは、21世紀の医学の変化についてのお話がありました。体に痛みがあるとき、原因となる場所が強く意識されることで、脳の痛みを感じる部分が大きくなってしまい、かえって痛みが増大してしまうのだそう。心と体が密接に関わっていることをあらためて実感させられるエピソードです。仏教で言われる「心身一如」という言葉が、仏教の智慧と、医学情報の両面から感じられる2日間でした。

かつての日本では僧侶が医療も担うことが珍しくなく、僧侶の袈裟は、江戸時代の医師の服装と同じだったという井上広法さんのお話も心に残っています。現代ではまったく別のものとなって離れてしまった仏教と医療、この両輪による健康の智慧を、「ココロとカラダの健康塾」でこれからもお届けしていきます。次回の開催も、ぜひ楽しみにしていてください!

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